Treatment

治療について

炎症性腸疾患(IBD)の薬物療法・栄養療法について

炎症性腸疾患(IBD)は、消化管に慢性的な炎症を引き起こす指定難病の総称であり、主に「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」に分類されます 。治療の重要な目標は、長期にわたり病状を安定させ、生活の質(QOL)を向上させることです 。IBD治療の主要な柱である「薬物療法」と「栄養療法」についてご説明します。  

治療の適応(対象となる方)

炎症性腸疾患の治療は、以下のような症状や状態が慢性的に、あるいは反復して認められる場合に検討されます 。  

  • 下痢や腹痛、血便、粘液便などの消化器症状が持続的に、または再発を繰り返す方。
  • 発熱や全身の倦怠感、食欲不振、意図しない体重減少が続く方 。  
  • 口内炎や関節痛、皮膚症状など、腸管外の合併症を伴う方 。  
  • 肛門の痛みや腫れ、膿が継続的に出る症状(肛門周囲膿瘍や痔瘻など)がある方 。  

IBD、特にクローン病は肛門病変を高頻度で合併することが知られており、肛門症状が疾患発見のきっかけとなることも少なくありません 。   

治療法の選択

炎症性腸疾患の治療は、患者様の病型、重症度、合併症の有無、ライフスタイルを慎重に評価した上で、最適な戦略を立てる「個別化治療」が基本です 。当クリニックでは、薬物療法と栄養療法を組み合わせた集学的なアプローチを重視しています。  

主な薬物療法の概要

5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤

潰瘍性大腸炎の治療の基本となる薬剤で、炎症のある腸粘膜に直接作用し炎症を抑えます 。寛解導入と維持の両方に使用され、全身への影響が少ないのが特徴です 。  

副腎皮質ステロイド

強力な抗炎症作用を持ち、活動期の炎症を速やかに鎮静化させる目的で用いられます 。副作用リスクがあるため、寛解維持目的の長期使用は避けます 。  

免疫調節薬・JAK阻害剤

5-ASA製剤やステロイドで効果が不十分な場合に使用され、過剰な免疫反応を調節し炎症を抑えます 。JAK阻害剤は、免疫細胞内の特定の伝達経路を阻害する経口薬です 。  

生物学的製剤

特定の炎症性サイトカインを阻害することで炎症を抑える、画期的な治療薬です 。中等症から重症のIBDに高い治療効果が期待できます 。  

顆粒球・単球吸着除去療法(GCAP)

薬物療法に効果が不十分な場合に検討される治療法です。血液を体外循環させ、炎症に関わる特定の白血球を吸着・除去し、炎症を抑えます 。副作用が比較的少ないのが特徴です 。  

主な栄養療法の概要

特にクローン病において、栄養療法は薬物療法と並ぶ重要な治療の柱です 。腸管を休ませ、十分な栄養を摂取することで、炎症の改善と栄養状態の維持を図ります 。  

経腸栄養療法

成分栄養剤などを口やチューブから摂取する方法です 。腸管への負担を軽減し、炎症が強い活動期には栄養剤のみで治療を行うこともあります 。  

経静脈栄養療法

病状が重度で経腸栄養が困難な場合に、点滴で直接栄養を投与する方法です 。腸管を完全に安静に保つことができます 。  

治療の詳細

IBDの治療方法や手順は患者様の病態によって異なります。

麻酔・所要時間

  • 麻酔方法: 薬物療法や栄養療法では、通常麻酔は行いません。
  • 所要時間: 顆粒球・単球吸着除去療法は約60~90分 。生物学的製剤の点滴投与は1~2時間以上かかる場合があります。  

治療手順

  • 薬物療法: 経口薬、注腸剤、坐剤などを使用。生物学的製剤は定期的に点滴や皮下注射で投与されます 。一部は自己注射も可能です 。  
  • 栄養療法: 経口で栄養剤を摂取、またはチューブや点滴で投与します 。  

当クリニックでの治療の流れ

当クリニックでは、問診や検査に基づいて正確な診断を行い、患者様と相談しながら最適な治療法を選択します。当院で対応可能な治療は外来で継続して行い、入院治療や外科手術が必要な重症例については、IBD専門の連携病院へ速やかにご紹介します 。  

入院・治療後経過

IBDの治療で入院が必要となるのは、病状が重度な場合や、経静脈栄養、緊急的な外科治療を要する場合です 。  

入院中の管理

入院中は、点滴治療や絶食・栄養管理が行われます 。痛みや発熱、排便コントロールなども重要なケアです 。

退院後の注意点

症状が治まった「寛解期」でも、自己判断で服薬を中止すると再燃リスクが高まります 。医師の指示に従い、根気よく治療を継続することが最も重要です 。規則正しい生活を心がけ、体調に合わせて食事内容を工夫することも大切です 。   

期待される効果

適切な治療を継続することで、以下のような効果が期待できます。

  • 下痢、腹痛、血便などの消化器症状が治まり、安定した状態(臨床的寛解)に導かれます 。  
  • 炎症が鎮静化し、腸の粘膜が修復される「粘膜治癒」を目指せます 。  
  • クローン病に合併する肛門病変の痛みや排膿、痔瘻が改善し、日常生活の苦痛が軽減されます 。  
  • 食事制限が緩和され、通常の食生活に戻ることで、生活の質(QOL)が向上します 。  

治療のリスクと合併症

IBD治療は高い効果が期待できる一方で、使用する薬剤によってはリスクや合併症が起こり得ます。

一般的なリスク

  • 薬剤の投与による吐き気、腹痛、発疹、発熱、頭痛など。

特有のリスクと合併症

  • 副腎皮質ステロイド: 長期使用により、骨粗鬆症や感染症などの副作用が起こり得ます 。  
  • 免疫調節薬・生物学的製剤: 免疫を抑える作用があるため、結核やB型肝炎ウイルスなどの日和見感染症のリスクが増加します 。  

リスク軽減への取り組み

当クリニックでは、治療開始前に詳細な検査を行い、潜在的な感染症の有無を確認します 。治療中も患者様の状態を定期的にモニタリングし、副作用の兆候がないか注意深く観察します 。多職種が連携し、栄養面からも患者様をサポートすることで、治療効果を高め、リスクを軽減します 。  

関連する疾患・症状について