治療について
大腸ポリープの内視鏡切除(EMR・ESD)について
大腸ポリープは、放置すると将来的に大腸がんへと進行する可能性のある前がん病変です。そのため、ポリープの段階で確実に切除することは、大腸がんを予防するための最も確実な治療法であると広く認識されています。内視鏡によるポリープ切除術は、開腹手術に比べて身体への負担が格段に少なく、低侵襲な治療として確立されています 。
当クリニックでは、患者様の安全を最優先し、ポリープのサイズや形態、組織型といった病変の特性に応じて、最適な内視鏡治療を提供しています。主な治療法には、スネアポリペクトミー、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、そして内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があり、これらの技術を駆使して、小さなポリープから早期のがんまで、幅広く対応しています 。
治療の適応(対象となる方)
治療適応の症状・状態
大腸ポリープの内視鏡切除は、以下のような症状や状態がある場合に検討されます。
- 腺腫性ポリープと診断された方
- 早期大腸がん(粘膜内がん)の方
- ポリープのサイズが内視鏡切除可能な範囲である方
- リンパ節転移のリスクが低い病変である方
- 全身状態が内視鏡治療に耐えられる方
- 抗血栓薬の調整が可能な方
- 定期的な経過観察が可能な方
手術術式の選択
内視鏡切除の適応は、単にポリープの有無だけで判断されるものではありません。病変の正確な診断、サイズ、肉眼的な形態、深達度(どの深さまで及んでいるか)、そしてリンパ節転移のリスクなどを総合的に評価した上で、最も安全で確実な治療法が選択されます 。
- コールド・ポリペクトミー(Cold Polypectomy)
- 適応: 平坦なポリープ(IIa型など)で、3mmから15mm程度の中・小型病変 。心臓病治療のため抗凝固薬を服用中の患者様など、抗血栓薬を服用している症例 。
- 方法: 高周波電流(熱)を一切使わずに、スネアと呼ばれる細いワイヤーでポリープを機械的に締め付けて切除します 。
- 特徴: 熱凝固を行わないため、周辺組織への不要なダメージを回避でき、術後の出血率がホット・ポリペクトミーに比べて有意に低いことが報告されています 。
- ホット・ポリペクトミー(Hot Polypectomy)
- 適応: 茎を有するキノコ状の有茎性ポリープ 。特に、1cmを超えるような大型のポリープや、内視鏡観察で茎部に太い血管の存在が予想される病変 。
- 方法: 高周波電流を流してスネアを加熱し、ポリープを熱凝固させながら切除する手法です 。
- 特徴: 茎に太い血管が通っている場合に、高周波電流による通電凝固で血管を熱で焼き固めて止血するため、手術中の出血リスクを効果的に管理できます 。
- EMR(内視鏡的粘膜切除術)
- 適応: 10mmから20mm程度の比較的大きな広基性(平坦)病変で、境界が明瞭なもの 。がん化が疑われる陥凹性病変(IIc型)に対しては、完全な病理診断を確実に行うためにEMRでの摘除が推奨されています 。
- 方法: ポリープ下の粘膜下層に生理食塩水などの液体を注入し、病変を浮き上がらせてからスネアで切除する手法です 。
- 特徴: 液体を注入する「クッション効果」により、高周波電流が深部の筋層にまで熱損傷を及ぼすのを防ぎ、穿孔リスクを大幅に低減できます 。
- ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)
- 適応: 20mm以上の大型病変、広範囲に広がる病変、線維化を伴う病変、そして粘膜内から粘膜下層の浅い部分に限定された早期がんなどです 。
- 方法: 専用の電気メスを用いて病変の周囲を円周状に切開し、粘膜下層を丁寧に剥離しながらポリープ全体を一つの塊として剥ぎ取る、高度な技術を要する手法です 。
- 特徴: 大型ポリープや早期がんを一つの塊として完全に切除する「en bloc切除」を可能にし、取り残しや局所再発のリスクを劇的に低減します 。
当クリニックでは、すべてのポリープに一律の治療法を適用するのではなく、病変の形態や血管走行といった微細な特徴を詳細に診断し、個々の病変に対して最もリスクの低い、テーラーメイドの治療法を選択することを重視しています。
治療の詳細
麻酔・所要時間
- 麻酔方法: プロポフォールなどによる静脈麻酔が一般的に用いられます 。
- 所要時間:
- ポリペクトミー: 5分から15分程度で完了し、鎮静なしでも実施可能です 。
- EMR: 15分から30分程度かかり、鎮静が推奨されます 。
- ESD: 60分から180分と時間を要するため、安全な治療には鎮静が必須となります 。
手術・治療手順
- ポリペクトミー手技: まず病変の茎の太さや血管の走行を確認し、適切なサイズのスネアで茎部を確実に捕獲します。高周波通電(ホット)または機械的切除(コールド)により切除した後、止血を確認し、検体を回収して病理検査に提出します 。
- EMR手技: 広基性病変に対して、周囲にマーキングを行い、粘膜下層に生理食塩水などの液体を注入して病変を浮き上がらせます。その後、スネアで粘膜全体を捕獲し、高周波切除によって一括または分割して切除します。切除後は、出血の有無を確認し、必要に応じてクリップで創部を閉鎖します 。
- ESD手技: EMRよりも高度な技術を要する手技です。専用のナイフで病変の周囲を円周状に切開し、粘膜下層を丁寧に剥離していきます。血管は予防的に凝固処理を行い、筋層を傷つけないよう細心の注意を払います。病変全体を一括で完全に切除した後、創部の止血処理や予防的クリッピングを行います 。
期待される効果
- 腺腫性ポリープの完全な除去による大腸がん化リスクの排除
- 早期大腸がんの完全な根治
- 開腹手術を回避することによる身体的負担の軽減と早期の社会復帰
- 出血や腹痛といったポリープによる症状の改善
- 病理診断による病変の確定診断
- QOL(生活の質)の維持
手術のリスクと合併症
一般的なリスク
内視鏡切除術は低侵襲な治療ですが、合併症のリスクはゼロではありません。
- 後出血: 術後1〜7日に発生することが多く、術後出血率はコールドポリペクトミーで0.3〜0.4%、ホットポリペクトミーで0.9〜2.0%と報告されています 。
- 穿孔: 術中から術後24時間以内に発生する可能性があり、発生率は0.1〜0.5%とされています 。ESDではやや高率となりますが、適切な手技でリスクを抑えます 。
- ポリープ切除後凝固症候群: 腹痛、発熱などの症状が出ることがあり、保存的治療で改善します 。
リスク軽減への取り組み
当クリニックは、安全性を何よりも重視しています。「無理な内視鏡治療は行わない」という方針のもと、精密な術前診断により、万が一内視鏡治療が困難な症例と判断した場合は、速やかに専門の外科医と連携して、患者様にとって最善の治療方針を提案します 。