治療について
肛門周囲膿瘍・直腸周囲膿瘍の切開排膿術について
肛門周囲膿瘍は、自然に治ることはなく、薬物治療では根治できません 。切開排膿術は、炎症の原因である膿を体外に排出する最も有効で確実な治療法です 。この手術は、肛門周囲に溜まった膿による激しい痛みや高熱といった急性期の苦痛を劇的に改善し、重篤な合併症を防ぐ上で不可欠な治療です 。
肛門周囲膿瘍とは
肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)とは、肛門の周りの組織に膿がたまる病気です。肛門内部の歯状線にある肛門腺に細菌が侵入し感染を起こすことで発生し、特に肛門の奥深くに膿がたまった場合は、直腸周囲膿瘍と呼ばれます 。
肛門周囲膿瘍は、痔瘻(じろう、あな痔)の初期段階である「急性期」にあたります。膿瘍が進行し自然に破裂して膿が排出されると、患者様の激しい痛みや腫れは一時的に和らぎますが 、膿が通った道(瘻孔)がトンネルとして残ることがあります。この慢性的なトンネルが痔瘻であり、治療を中断すると痔瘻へと進行する可能性が非常に高まります 。痔瘻は再発を繰り返すだけでなく、まれにがん(痔瘻がん)へ進展するリスクも指摘されており、その治療はより複雑で難易度が高くなります 。痛みが引いた後こそ、今後の治療方針を専門医と相談することが不可欠です。
手術の適応(対象となる方)
以下のような症状や状態がある方は、切開排膿術が適用となる可能性があります。できるだけ早く専門のクリニックにご相談ください。
手術適応の症状・状態
- 突然の激しい痛みや腫れ: お尻の周囲が急に腫れ、座ったり歩いたりするだけで耐え難い痛みを感じる 。
- 高熱を伴う場合: 膿瘍が大きくなると、38℃を超える高熱を伴うことがあります 。
- お尻の奥の違和感: 浅い部分の膿瘍では激しい痛みを感じる一方、深い部分に膿瘍がある場合は、お尻の奥の鈍い痛みや、倦怠感、微熱が続くことがあります 。
- しこりや熱感: お尻に固いしこりができ、触ると強い痛みを伴うことがあります 。
緊急性について
肛門周囲膿瘍は、急激な痛みや発熱を伴う病気ですが、放置すると膿が周囲に広がり、敗血症や壊死性筋膜炎といった生命に関わる重篤な合併症を引き起こす可能性があります 。また、自然に膿が排出されても、高確率で痔瘻(あな痔)に移行し、再発を繰り返すなど治療がより複雑になるため、早急な受診が不可欠です 。
手術術式の選択
切開排膿術が第一選択である理由
肛門周囲膿瘍の治療において、切開排膿術が第一選択とされるのには明確な理由があります。膿が溜まっている状態では、内部の血流が悪く、抗菌薬が患部に十分に届かないため、根本的な治療効果は期待できません 。そのため、皮膚を切開して溜まった膿を体外に排出する「切開排膿術」が最も有効で確実な治療法となります 。
膿瘍の状況に応じた選択
膿瘍の位置や深さによって、麻酔方法や治療内容が異なります。
- 浅い部分の膿瘍: 局所麻酔による日帰り手術で十分に処置が可能です 。
- 深い部分の膿瘍: 肛門の奥深くや広い範囲に膿瘍が及んでいる場合は、直腸周囲膿瘍と呼ばれ、十分な麻酔と処置を行うために、腰椎麻酔や短期入院での治療が必要となることがあります 。
患者様が「手術は痛くて怖い」という先入観を持つことは少なくありません。しかし、切開排膿術は、炎症の原因である膿を排出することで痛みの根本を取り除く治療です。麻酔が十分に行われるため、手術中の痛みは最小限に抑えられます 。手術時間自体が非常に短いため(5分〜10分程度)、患者様の身体的・精神的な負担が少ない治療法といえます 。
手術の詳細
当クリニックでは、患者様の苦痛を一日も早く取り除くため、迅速かつ丁寧な切開排膿術を行っています。以下に、手術の一般的な流れを説明します。
麻酔・所要時間
- 麻酔方法: 局所麻酔(深部膿瘍の場合は腰椎麻酔)
- 手術時間: 5分〜10分程度
手術・治療手順
- 診察と診断: 問診で症状を詳しく伺った後、患部を診察し、超音波検査、CT、MRI検査などで膿瘍の位置や広がりを確認します 。
- 麻酔: 膿瘍の深さや患者様の状態に応じて麻酔を行います 。
- 切開排膿: 腫れている部分の皮膚を小さく切開し、溜まった膿を排出します 。
- 術後観察: 手術後は出血や痛みの有無などを確認し、問題がなければご帰宅いただけます 。
入院・術後経過
入院について
浅い部分の膿瘍であれば、日帰りでの手術が可能です 。膿瘍が深く広範囲に及ぶ場合や、患者様のご希望に応じて短期入院(4〜5日程度)も対応可能です 。
術後の一般的な経過
手術後、麻酔が切れ始めると痛みが出ることが一般的ですが、痛み止めの内服薬が処方されます 。多くの場合、手術当日〜翌日にかけて痛みのピークを迎え、その後は徐々に軽減していきます 。
切開した傷口からは、しばらくの間、膿やリンパ液、少量の出血が続くことがありますが、これは傷口が治癒していく過程で正常に起こる現象であり、再発や治療の失敗ではありません 。肛門周囲膿瘍は傷が完全に治るまでに3ヶ月程度かかる場合があるため、焦らずに経過を見守ることが大切です 。
術後約1週間で、日常生活や事務的なお仕事、軽い運動などは通常通り可能となります 。
ご自宅でのケア
- 清潔を保つこと: 排便後は、シャワーや清潔なウォシュレットで患部を優しく洗浄してください 。
- 安静期間: 激しい運動、長時間の歩行、自転車・バイクの運転、飲酒などは、術後1〜2週間は控えてください 。
期待される効果
切開排膿術により、以下の効果が期待できます。
- 激しい苦痛からの解放: 溜まった膿を外に出すことで、激しい痛みや高熱といった急性期の症状が劇的に改善します。
- 重症化の回避: 膿瘍を放置すると、感染が広がり敗血症や壊死性筋膜炎といった生命に関わる重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、このリスクを未然に防ぎます。
手術のリスクと合併症
痔瘻の形成
肛門周囲膿瘍は、膿が排出された後に、高確率で痔瘻(あな痔)に移行する病態です 。これは手術の失敗ではなく、この病気の自然な進行であると理解することが重要です。特に深い部分にできた膿瘍は、痔瘻へ移行する割合が高くなります 。膿瘍が痔瘻に進行した場合、炎症が落ち着いた段階で痔瘻の根治手術が必要となります。
その他のリスクと注意点
- わずかな出血: 術後、傷口から少量の出血が見られることがありますが、通常は自然に止まります。
- 再発: 生活習慣の乱れや免疫力の低下などにより、再度細菌が侵入し、肛門周囲膿瘍を再発する可能性はあります。