疾患について
便秘症の症状
便秘症は、単に排便がない状態を指すだけでなく、排便時にいきむ必要がある、便が硬い、残便感があるといった排便の質が重視される疾患です。国際的な診断基準では、6つの項目のうち2つ以上が該当する場合に便秘症と診断されます。具体的には、「排便の4分の1超の頻度で強くいきむ必要がある」「兎糞状または硬い便が出る」「排便後も便が残っている感じがする(残便感)」などが挙げられます。したがって、毎日排便があったとしても、便が硬かったり、排便時に苦痛を感じたりする場合は便秘症に該当すると考えられます。
便秘症の主な症状には、以下のようなものが挙げられます。
- 排便が週に3回未満しかない。
- 排便の4分の1超の頻度で強くいきむ必要がある。
- 兎の糞のようなコロコロした便や硬い便が出る。
- 排便後も便が残っている感じがする(残便感)。
- 腹部の張りや痛み、吐き気、食欲不振がある。
- 肌荒れ、肩こり、イライラ、倦怠感といった全身の不調がある。
このような症状を放置すると、便が硬くなりすぎて腸が詰まる腸閉塞(イレウス)や、憩室炎などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。また、無理にいきむことで痔(いぼ痔、切れ痔)や裂肛といった肛門の疾患を発症、悪化させるリスクも高まります。さらに、便が腸内に長く滞留することで、発がん性物質が腸壁に触れる機会が増え、大腸がんのリスクを増加させる可能性も指摘されています。便秘は単なる不快な症状ではなく、放置することで命に関わるような病気に繋がることもあるため、自己判断で放置せず、専門医に相談することが大切です。
原因
便秘の原因は多岐にわたり、大きく分けて「機能性便秘」と「器質性便秘」に分類されます。多くの便秘は、腸の機能的な問題によって引き起こされる機能性便秘に該当します。
便秘を引き起こす具体的な原因には、以下のようなものが挙げられます。
- 機能性便秘
- 弛緩性便秘: 運動不足、食物繊維や水分の不足、腹筋力の低下などにより、大腸のぜん動運動が鈍ることで起こります。高齢者や若い女性、妊婦に多く見られます。
- 痙攣性便秘: ストレスや不規則な生活習慣によって自律神経が乱れ、腸管が過度に緊張することで、ウサギの糞のようなコロコロとした便になります。腹痛や腹部膨満感、便秘と下痢を繰り返すといった症状を伴うこともあります。
- 直腸性便秘: 便意を我慢する習慣や加齢などにより、便が直腸に達しても排便反射がうまく起こらないタイプです。
- 器質性便秘: 大腸がんや腸閉塞など、腸そのものに何らかの病気があるために便秘が起こる状態です。この場合、原因疾患の治療が必要となります。
- その他の原因
- 生活習慣: 食物繊維や水分摂取の不足、運動不足、多忙による便意の我慢などが挙げられます。
- 薬剤: 一部の薬の副作用として便秘が引き起こされることがあります。代表的なものに、抗コリン薬、抗うつ薬、パーキンソン病治療薬、鎮咳薬、鉄剤などがあります。
- 基礎疾患: 便秘の背後には、過敏性腸症候群、大腸がん、甲状腺機能低下症、パーキンソン病、うつ病、糖尿病神経障害といった、様々な病気が隠れている可能性があります。
多くの場合、これらの要因が複合的に絡み合って便秘症を発症します。特に、便秘に加えて血便、急激な体重減少、強い腹痛などの症状を伴う場合は、大腸がんなどの重篤な病気が隠れている可能性があるため、早急な医療機関の受診が不可欠です。
診断
便秘症の診断は、単に便秘の有無を確認するだけでなく、その根本的な原因を多角的に探るプロセスです。当院では、患者様一人ひとりに合わせた最適な治療方針を立てるために、以下の方法を組み合わせて診断を行います。
- 問診と身体診察: まず、患者様の排便状況、病歴、服用中の薬、そして日々のライフスタイルまで、詳細にお話を伺います。次に、腹部の聴診や触診を行い、便やガスの溜まり具合を確認します。
- 画像検査: 必要に応じて、腹部X線検査(レントゲン)を実施し、お腹の状態を客観的に把握します。また、より詳細な原因を探るため、超音波検査や大腸内視鏡検査を検討します。
- 大腸内視鏡検査: 腸に病変がないかを確認するために不可欠な検査です。大腸がんやポリープ、炎症性腸疾患など、腸管が狭くなったり、便の通過を妨げたりする原因がないかを直接観察することができます。特に、便通異常に加え、血便や腹痛がある方、50歳以上の方、大腸がんの家族歴がある方には強く推奨されます。
- 専門的機能検査: 薬物療法や生活習慣の改善で効果が不十分な場合、排便機能そのものに問題がないかを調べるために、排便造影検査や直腸肛門内圧検査を行うことがあります。
これらの検査を通じて、便秘が単なる機能的な問題なのか、それとも重篤な病気が隠れている器質的な問題なのかを正確に鑑別し、一人ひとりの病態に応じた最適な治療へと進むことが可能となります。
治療
便秘症の治療は、まず食事や運動などの生活習慣の改善を基本とし、それでも十分な効果が得られない場合に薬物療法やその他の専門的な治療を段階的に検討するのが一般的です。
便秘症の主な治療法は以下の通りです。
- 生活習慣の改善:
- 食事療法: 食物繊維は便の量を増やし、便の水分を保持する役割があります。野菜、果物、豆類、全粒穀物などを積極的に摂取し、同時に十分な水分を摂ることが重要です。
- 運動習慣: 適度な運動は腸のぜん動運動を活発にし、便の移動を促します。
- 規則正しい排便習慣: 便意を我慢せず、毎食後など決まった時間にトイレに行く習慣をつけることも効果的です。
- 薬物療法: 生活習慣の改善で効果がない場合、薬物療法が検討されます。現在は、従来の刺激性下剤に加え、より安全で効果的な新しいタイプの薬剤も開発されています。
- 浸透圧性下剤: 酸化マグネシウムなどがこれに該当し、腸壁から水分を引き寄せて便を柔らかくします。
- 上皮機能変容薬: 腸管の水分分泌を促す作用を持つ薬剤で、ルビプロストン(アミティーザ®)やリナクロチド(リンゼス®)などがあります。
- 胆汁酸トランスポーター阻害薬: 胆汁酸の働きを活かし、水分分泌と大腸のぜん動運動を促すエロビキシバット(グーフィス®)がこれに該当します。
- 漢方薬: 便秘の原因となる体質や、冷え、イライラ、月経不順といった全身の症状を考慮して処方されます。大黄甘草湯、麻子仁丸など、多様な選択肢があります。
- 専門的な治療: 薬物療法でも改善が見られない難治性便秘症や、特定の原因が特定された便秘症には、さらに専門的な治療が検討されます。
- バイオフィードバック療法: 排便機能の異常が原因の便秘に対し、センサーを使って骨盤底筋の動きを視覚的に認識し、正しい排便動作を訓練する治療法です。
- 手術療法: 便排出障害の原因となる直腸瘤(排便時に直腸の壁が膣側に袋状に飛び出す状態)が確認された場合、その壁を補強する手術が検討されることがあります。