Diseases

疾患について

大腸憩室症の症状

大腸憩室症とは、大腸の壁にできる5〜10mm程度の袋状の凹み(憩室)のことで、80歳以上の約75%に認められるほど身近な病態です。多くは無症状ですが、憩室に便が詰まる、あるいは憩室内の血管が傷つくことで炎症や出血といった合併症を引き起こすと、様々な症状が現れます。合併症の主な種類である「大腸憩室炎」と「大腸憩室出血」では、異なる特徴的な症状が見られます。

  • 大腸憩室出血の主な症状 最も特徴的なのは、痛みを伴わない突然の血便や下血です。出血量が多いと、便器が真っ赤になるほどの大量出血となることもあります。大量出血が続くと、立ちくらみや動悸、血圧低下などの貧血やショック症状を引き起こす危険性もあります。  
  • 大腸憩室炎の主な症状 大腸憩室炎では、発熱や腹痛が主症状です。炎症が起きた部位に限局した痛みや、吐き気、嘔吐、下痢などを伴うことがあります。重症化すると、憩室に膿がたまる「膿瘍」や「穿孔」などを引き起こし、腹膜炎や敗血症へと進行する危険性があります。  

大腸憩室症による症状は、虫垂炎や他の大腸疾患と似ている場合があり、自己判断は非常に危険です。特に「痛みを伴わない下血」は大腸憩室出血を強く示唆する重要なサインであり、このような症状が現れた際には速やかに医療機関を受診することが不可欠です。  

原因

大腸憩室症は、加齢に伴う大腸の壁の脆弱化と、腸管内圧の上昇が複合的に絡み合って発症すると考えられています。大腸の壁が弱くなった部分に、便秘やいきみなどによって腸管内圧が上昇することで、憩室が形成されます。  

  • 腸管壁の脆弱化 加齢によって大腸の筋層が薄く、弱くなることや、食物繊維の摂取不足が主な要因です。  
  • 腸管内圧の上昇 便秘や、排便時のいきみによって大腸に強い圧力がかかることで起こります。食物繊維の少ない肉中心の食生活は便秘の原因となり、腸管内圧の上昇を招きます。  
  • 合併症のリスクを高める要因 特定の薬剤(非ステロイド性抗炎症薬、抗血栓薬など)の使用や、喫煙、肥満などが、合併症のリスクを高めることが報告されています。  

かつて憩室に詰まると考えられていたナッツや種子類と憩室炎・出血の関連はないとされており、摂取を避ける必要はないと考えられています。これらの原因は複合的に影響し合って発症することが多く、日々の生活習慣を見直すことが予防や合併症のリスク管理につながります。  

診断

大腸憩室症の診断は、患者様の症状や病歴を詳しくお伺いする問診に加え、いくつかの検査を組み合わせて総合的に行われます。腹痛や下血といった症状は他の多くの消化器疾患と似ているため、確定診断と同時に鑑別診断を行うことが重要です。診断は、主に以下の方法を組み合わせて行います。  

  • 問診と身体診察 症状や既往歴、服用中の薬について詳しくお伺いします。腹部の触診で痛みや圧痛の部位を確認し、炎症の有無を判断します。  
  • 血液検査 憩室炎が疑われる場合は、炎症の程度や貧血の有無を確認します。  
  • 画像検査 腹部CT検査や超音波(エコー)検査で、腸管壁の肥厚、憩室、炎症、合併症を確認します。出血が疑われる場合は造影CT検査で出血部位を特定することもあります。  
  • 大腸内視鏡検査(大腸カメラ) 憩室の存在や数、炎症、出血部位を直接確認する最も重要な検査です。出血が確認された場合は、そのまま止血処置を行うことも可能です。また、大腸憩室症の症状が他の病気と似ているため、大腸がんや炎症性腸疾患といった他の疾患との鑑別にも不可欠な検査です。  

合併症のない大腸憩室症は、大腸がん検診などで偶然発見されることが多いため、自覚症状がなくても定期的に大腸内視鏡検査を受けることが、大腸の健康を把握し、早期発見・早期治療につなげる最良の方法です。

治療

大腸憩室症の治療は、合併症の有無や重症度によって大きく異なります。病態に応じた段階的なアプローチが重要です。

  • 無症状の大腸憩室症 合併症がなく、症状を伴わない大腸憩室症の場合、特別な治療は必要ありません。しかし、将来的な合併症を予防するため、食物繊維と水分を豊富に摂取し、便通を管理することが重要となります。  
  • 大腸憩室炎の場合 軽症の場合は、安静と絶食(または消化の良い食事)、抗菌薬の内服が中心となります。重症の場合は入院し、絶食や点滴、抗菌薬の静脈投与を行います。膿瘍や穿孔、腹膜炎を伴う場合は、緊急手術が必要になることもあります。  
  • 大腸憩室出血の場合 大腸憩室出血の約75〜80%は自然に止血すると言われています。そのため、まずは絶食や点滴による腸管安静を保ち、自然止血を待ちながら慎重に経過を観察します。ただし、出血が持続する場合や、大量出血が続く場合には、緊急の止血処置が必要です。  
  • 外科的治療(手術) 大腸憩室出血には、内視鏡を用いた止血術が第一選択です。内視鏡で出血している血管にクリップをかけるなどして止血します。
    手術について→大腸憩室出血の内視鏡止血術について  
  • 内視鏡での止血が困難な場合は、カテーテルを用いて血管を塞ぐ「動脈塞栓術」が行われることがあります。また、これらの処置でも止血できない場合や、憩室炎が重症化して穿孔などを起こした場合には、出血源や炎症部位がある大腸の一部を切除する手術が必要となります。  

大腸憩室症は一度できると消えることはなく、特に合併症を起こした方は再発しやすいことが知られています。そのため、合併症の治療後も、食物繊維を積極的に摂取し、便通を整えるといった日々の生活習慣を見直すことが、再発防止の鍵となります。治療は病状の改善だけでなく、長期的な予防を視野に入れることが重要です。