Diseases

疾患について

薬剤性大腸炎の症状

薬剤性大腸炎は、特定の薬剤が原因で大腸に炎症が起こる病態です。多くの場合、原因薬剤の特定と服用の中止により改善が期待できます。この病態は主に「偽膜性大腸炎」と「急性出血性大腸炎」の二つの病型に分けられます。偽膜性大腸炎は、抗生物質の使用が原因で起こり、水様性の下痢を主症状とします。一方、急性出血性大腸炎は、血性下痢を伴うことが特徴です。

主な症状としては、下痢や腹痛、腹部の張り、下血(血便)などが挙げられます。  

  • 下痢: 柔らかい便、水様便、泥状便など、便の状態は様々です。  
  • 腹痛: 痙攣性または持続的な痛みを伴うことがあります。  
  • 下血: 便に血液が混じることがあります。  
  • その他: 発熱、吐き気、食欲不振、体重減少、貧血といった全身症状を伴うこともあります。  

これらの症状は、原因薬剤の服用を開始してから数日後から2週間以内に現れることが多いとされています。重症化すると、高熱や激しい腹痛、頻回の水様性下痢が続くことがあります。また、重症例では脱水や電解質異常、さらには腸管穿孔、中毒性巨大結腸症、敗血症などの命にかかわる合併症を引き起こす可能性があり、特に高齢者や重篤な基礎疾患を持つ方では注意が必要です。  

原因

薬剤性大腸炎は、特定の薬剤が腸管の粘膜に直接的または間接的に作用することで発症します。原因となる薬剤は多岐にわたりますが、特に多いのは抗生物質、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗がん剤です。  

  • 抗生物質: ペニシリン系、セフェム系、クリンダマイシンなどが原因となることがあります。抗生物質は腸内細菌叢のバランスを崩し、クロストリディオイデス・ディフィシルなどの有害な細菌が異常に増殖する「菌交代現象」を引き起こすことがあります。  
  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): アスピリン、イブプロフェン、ジクロフェナクなどが挙げられます。NSAIDsは、炎症を抑える作用がある一方で、腸管粘膜を保護するプロスタグランジンという物質の合成も阻害するため、粘膜が傷つきやすくなり炎症を生じさせます。  
  • 抗がん剤: イリノテカンやフルオロウラシルなどが原因となることがあります。抗がん剤は、腸管粘膜の細胞分裂を直接阻害することで粘膜の傷害を引き起こすことが知られています。  

これらの薬剤が、それぞれ異なるメカニズムで腸管に影響を及ぼし、炎症を引き起こすことで薬剤性大腸炎が発症します。  

診断

薬剤性大腸炎の診断は、問診、身体診察、血液検査、便検査、そして大腸内視鏡検査を組み合わせて行われます。

診断の第一歩は、症状が現れる以前の服薬歴を詳細に確認することです。特に、抗生物質やNSAIDsの使用の有無は診断の大きな手がかりとなります。問診と並行して、血液検査では炎症マーカーの上昇や貧血、脱水の有無などを確認し、便検査では便潜血や炎症の指標となる物質の測定、また偽膜性大腸炎の原因菌であるクロストリジオイデス・ディフィシル菌の毒素や抗原を調べる検査が行われることもあります。  

最終的な診断には大腸内視鏡検査が不可欠です。内視鏡を用いて腸管粘膜の状態を直接観察し、炎症の程度や範囲を評価します。この検査で、偽膜性大腸炎に特徴的な黄白色の偽膜や、急性出血性大腸炎に見られる粘膜のびまん性の発赤やびらんなどを確認します。また、同時に組織の一部を採取(生検)して病理検査を行うことも、確定診断に有効です。  

薬剤性大腸炎は、症状や内視鏡所見が感染性腸炎や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)と似ているため、これらの疾患との鑑別が非常に重要となります。  

治療

薬剤性大腸炎の治療は、主に保存療法が中心となります。原因薬剤の早期中止と、症状に応じた対症療法を組み合わせることが基本です。

  • 原因薬剤の中止: 薬剤性大腸炎の治療で最も重要なのは、原因と考えられる薬剤の服用を直ちに中止することです。ただし、基礎疾患の治療に不可欠な薬剤である場合もあるため、必ず医師の指示に従う必要があります。  
  • 対症療法: 下痢が強い場合には、腸管を安静に保つための絶食や輸液(点滴)が行われます。また、水分補給も重要な治療の一つです。  
  • 薬物療法: 偽膜性大腸炎では、原因菌であるクロストリジオイデス・ディフィシル菌に有効な特殊な抗菌薬(バンコマイシンやメトロニダゾールなど)が使用されることがあります。  
  • 内視鏡的治療: 出血が続く場合には、内視鏡を用いて出血部位を直接止める「内視鏡的止血術」が行われることがあります。
    治療について→大腸憩室出血の内視鏡止血術について  

薬剤性大腸炎の予後は、原因薬剤の早期中止と適切な治療により良好であり、軽症例では数日~1週間程度で症状が改善することが多いです。しかし、重症例や高齢者では回復に数週間から数か月を要する場合もあり、入院による管理が必要となることもあります。