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疾患について

アメーバ赤痢の症状

アメーバ赤痢は、原虫の一種である赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)が引き起こす感染症です。感染しても無症状の保菌者(キャリア)となるケースが多い一方で、発症すると大腸に炎症を引き起こし、特徴的な消化器症状を伴います。潜伏期間は通常2〜4週間ですが、数日から数年におよぶこともあり、その症状は数日から数週間の間隔で良くなったり悪くなったりする、慢性的な経過をたどることが少なくありません。

アメーバ赤痢の代表的な症状は以下の通りです。

  • イチゴゼリー状の粘血便: 血液と粘液が混じり合った、特徴的な便が出ることがあります。
  • 下痢、しぶり腹: 便が残っているような感覚(しぶり腹)や、頻繁な排便欲求を伴う下痢が見られます。
  • 排便時の下腹部痛や不快感: 大腸の炎症により、排便の際に下腹部の痛みや不快感を伴うことがあります。
  • 全身症状: 発熱や全身の倦怠感を伴うこともあり、初期にはインフルエンザなどと誤診されるケースも存在します。

まれに、アメーバが大腸から血流に乗って肝臓などの他の臓器に移動し、病変を形成することがあります。特に肝膿瘍が最も高頻度でみられ、その場合には高熱(38∘Cから40∘C)、右上腹部の痛み、吐き気、嘔吐、体重減少などがみられます。これらの症状は他の大腸炎と似ているため、自己判断は危険です。粘血便や下痢が続く場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。

原因

アメーバ赤痢は、病原体である赤痢アメーバの成熟嚢子(シスト)が口から体内に入ることで感染します。感染経路は主に「糞口感染」と「性的接触」の二つに分けられます。日本国内の感染者数は、2016年をピークに減少傾向にあるものの、依然として多くの報告がなされている感染症です。

主な感染経路は以下の通りです。

  • 糞口感染(汚染された飲食物を介する): 感染者の糞便に排出されたシストで汚染された水や飲食物(特に生野菜など)を摂取することで感染します。衛生環境が不十分な地域での感染リスクが高いとされており、海外渡航者からの感染が主要な感染機会の一つです。また、食品を扱う人の衛生管理が不十分な場合や、乳幼児のおむつ交換など、介護の場面でも感染する可能性があります。
  • 性的接触による感染: 特定の性行為、特に口腔・肛門性交によって、シストが直接的に口に入ることで感染が起こります。日本国内で報告されるアメーバ赤痢の感染例の多くは、海外渡航歴のない患者、特に男性同性愛者(MSM)間での感染によるものと報告されています。

アメーバ赤痢は、一度感染して治療しても免疫が成立しないため、再びシストを摂取する機会があれば、何度でも感染する可能性があります。そのため、衛生管理の徹底と、感染リスクの高い行動への注意が再感染の予防に不可欠です。

診断

アメーバ赤痢の診断は、患者様の症状や渡航歴、性生活の状況などをお伺いする詳細な問診と、いくつかの検査を組み合わせて総合的に行われます。特に、症状が他の大腸炎と類似しているため、正確な診断のためには専門的な検査が重要となります。

診断に用いられる主な検査方法は以下の通りです。

  • 糞便検査: 糞便中の赤痢アメーバの有無を顕微鏡で直接観察したり、アメーバの抗原や遺伝子を検出したりする方法があります。ただし、アメーバが一時的に排出されないこともあるため、一度の検査で陰性であっても、感染を完全に否定することはできません。
  • 血液検査(抗体検査): 血液中に赤痢アメーバに対する抗体があるかを調べます。感染後2〜3週間ほどで陽性となることが多く、特に肝膿瘍などの腸管外病変の診断に有用です。
  • 大腸内視鏡検査: 潰瘍や炎症の程度を直接観察し、病変部から組織の一部を採取(生検)してアメーバの有無を確認します。大腸の粘膜に「フラスコ型」と呼ばれる特徴的な潰瘍が見られることがあり、これはアメーバ赤痢に比較的特徴的な所見です。

アメーバ赤痢の診断は専門的な知識が求められます。当院では、問診から各種検査を組み合わせ、正確な診断と適切な治療方針の決定に努めています。

治療

アメーバ赤痢の治療は、主に抗原虫薬の内服を中心に行われます。症状の程度や病変の部位に応じて、適切な薬剤と期間で治療を進めます。アメーバ赤痢は、細菌性赤痢の治療に用いられる抗菌薬とは異なる専用の薬剤が必要であるため、自己判断で市販薬を使用することは避けるべきです。

主な治療方法は以下の通りです。

  • 薬物療法: 第一選択薬として、メトロニダゾールなどの抗原虫薬を一定期間服用します。この薬は腸管や肝臓など組織内のアメーバを効果的に駆除します。また、症状が改善したとしても、体内に残った嚢子(シスト)を排除するために、パロモマイシンなどの薬剤を追加で服用することが推奨されています。
  • 手術療法: 腸管に大きな潰瘍ができて穿孔したり(穴が開く)、壊死(組織が死ぬ)を起こすなど、重症化して命に関わるような場合には、緊急で壊死した腸管を切除する手術が必要となることがあります。これは非常にまれなケースです。

治療後は、病原体が完全にいなくなったことを確認するために、再度検査を行うことが重要です。また、アメーバ赤痢は再感染する可能性があるため、治療が完了した後も、手洗いを徹底するなどの衛生管理や、感染リスクのある行動への注意といった予防策を継続することが大切です。