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疾患について

直腸がん・肛門管がん・痔瘻がんの症状

痔瘻がん、肛門管がん、直腸がんの初期症状は、痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)と酷似しているため、多くの患者さんが「単なる痔だろう」と自己判断してしまうことが、発見の遅れに繋がる最大の要因です。しかし、それぞれの疾患には、見過ごしてはならない特有の兆候が存在します。

直腸がんの症状

直腸がんは大腸がんの一部であり、早期の段階では自覚症状がほとんどないことが一般的です。がんが大きくなり、便の通過に影響を及ぼすことで症状が現れます。

  • 便に血が混じる(血便、下血)。直腸は肛門に近いため、鮮やかな赤い血が便の表面に付着したり、ポタポタと落ちるのが特徴です。
  • 便秘と下痢を繰り返すなど、排便習慣の変化。
  • 便が細くなる。
  • 残便感(便が残っている感じ)。

肛門管がんの症状

肛門管がんは、その初期症状が痔と最も酷似しているため、見過ごされやすいがんです。

  • 排便時の出血。
  • 肛門周囲のかゆみや違和感。
  • 触れることができるしこりやイボ。

一方で、患者の約20〜25%は初期段階では自覚症状が全くなく、別の疾患の検査や定期的な健診で偶然発見されることもあります。

痔瘻がんの症状

痔瘻がんは、長期間にわたる痔瘻(あな痔)の病歴を持つ方に発生することが特徴です。単なる痔瘻の症状が悪化したように見えますが、以下のような特定の変化が現れた場合は、がんを強く疑う必要があります。

  • 10年以上続く、再発を繰り返す慢性的な痔瘻。痔瘻が慢性化し、複雑化するにつれて発がんリスクが高まります。
  • ゼリー状の分泌物や出血。これは、痔瘻がんが粘液癌の形態を取ることが多いため、がん細胞が作り出す異常な分泌物である可能性を示唆する重要な兆候です。
  • 肛門の痛みや肛門が狭くなる感覚(狭窄感)による排便障害。特に激しい痛みが突然現れたり、排便時に肛門の通り道が狭くなったと感じる場合は、がん組織が周囲を浸潤・圧迫している可能性があります。
  • 肛門周囲の急なしこりの増大。慢性痔瘻の瘻孔(あな)周囲に急に大きく、または硬い板状のしこりが触れることがあります。

多くの人が「痛み=異常」と認識していますが、直腸は自律神経の支配を受けているため、がんが大きくならない限りは痛みを感じにくいという特性があります。この「痛みを伴わない出血」は、痔と自己判断してしまう大きな要因となりますが、実はがんの可能性を示唆する重要な兆候となり得ます。

原因

これら3つのがんは、肛門・直腸周辺に発生するという共通点を持ちながらも、その原因はそれぞれに異なります。慢性的な炎症、ウイルス感染、そして生活習慣が主なリスク要因として挙げられます。

直腸がんの原因

直腸がんは大腸がんの一部であり、その発症には食生活や生活習慣が深く関与していると考えられています。特に、欧米型の食生活(野菜や果物の摂取不足、赤身肉・加工肉の過剰摂取)が発症リスクを高めるとされています。その他にも、運動不足、肥満、過度な飲酒なども直腸がんのリスク要因として挙げられています。

肛門管がんの原因

肛門管がんの発症には、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症が最も重要なリスク要因として挙げられます。特にハイリスク型とされるHPV16型や18型が、肛門管がんの約87%に関与していると報告されています。性行為、特に肛門性交はHPV感染のリスクを高め、HIV感染者など免疫力が低下した集団では、その発症リスクが著しく高まることが知られています。また、喫煙も年齢や他の危険因子とは独立した高リスク因子であることが示唆されています。

痔瘻がんの原因

痔瘻がんは、長年にわたり放置された痔瘻の慢性炎症が主たる原因です。研究データによると、痔瘻がんの全症例の約85%に10年以上の痔瘻の既往歴が確認されており、10年以上の慢性炎症歴を持つ患者の約30%で前癌病変が見つかるという報告もあります。肛門の腺に細菌が入り込み膿瘍が形成され、それが皮膚と直腸をつなぐトンネル(瘻管)ができた状態が痔瘻です。このトンネル内部で繰り返される炎症と組織の損傷・修復のサイクルは、細胞のDNA変異を促進し、がん化のリスクを高めることが分かっています。

診断

直腸がん、肛門管がん、痔瘻がんの症状は似ているため、正確な診断のためには専門医による複合的な検査が不可欠です。診断プロセスは、初期の簡易的な診察から、病変の確定、そして病期の特定へと段階的に進みます。

  • 共通する最初のステップ:
    • 問診と視診、手袋をした指で直腸下部を触る直腸指診が行われます。直腸指診は、直腸がんの約70%を発見できる簡便ながらも重要な検査です。
    • 肛門鏡と呼ばれる短い筒状の器具を挿入し、肛門管内部や下部直腸を直接観察する肛門鏡検査も行われ、痔やがんの有無を目視で確認します。
  • 直腸がんの診断:
    • 確定診断には大腸内視鏡検査が最も重要な役割を担います。先端のカメラで腸の内部を直接観察し、病変があればその場で組織を採取します。
    • 手術方針の決定のためには、CT検査で遠隔転移がないか、MRI検査でがんの直腸壁への浸潤範囲を詳細に評価します。
  • 肛門管がんの診断:
    • 肛門鏡検査や大腸内視鏡検査で病変が確認された場合、組織検査(生検)によって組織型を確定します。その後、CTやMRIなどの画像検査が行われ、がんの広がりや転移の有無が評価されます。
  • 痔瘻がんの診断:
    • 肉眼での診断が困難なため、診断の確定には病変の組織を採取して顕微鏡で調べる「生検」が必須となります。

治療

痔瘻がん、肛門管がん、直腸がんの3つのがんは、それぞれに異なる治療戦略が用いられます。この違いを理解することは、正確な診断がいかに重要であるかを治療の観点から明確に示します。

直腸がんの治療

直腸がんの治療法は、がんの進行度や位置、患者さんの全身状態によって多岐にわたります。 ごく早期の段階では、内視鏡を使って病変を切除する「内視鏡治療」が可能です。EMR(内視鏡的粘膜切除術)や、より広範囲の切除が可能なESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)が選択されます。

肛門管がんの治療

肛門管がんの治療は、肛門の機能を温存することを最優先に考えます。このがんが放射線や化学療法に感受性が高いという特性に基づき、これらを同時に行う「化学放射線療法」が標準的な治療法として確立されています。この治療法は、手術をせずにがんを根治できる可能性があり、肛門の機能を温存できるため、生活の質(QOL)を維持することに繋がります。化学放射線療法でがんが消失しない場合や再発した場合に、初めて手術が検討されます。

痔瘻がんの治療

痔瘻がんの治療は非常に困難であり、根治には外科的切除が基本となります。がんが瘻管の奥深くで発生しているため、多くの場合、肛門を含む広範囲の切除が必要です。肛門を大きく切除する「直腸切断術」が必要となり、多くの場合、永久的な人工肛門(ストーマ)を造設することになります。

手術について

がんが腸壁深く浸潤している場合は、手術が治療の原則となります。肛門からがんまでの距離が十分にある場合は、肛門括約筋を温存する肛門温存手術が選択されます。近年は、傷が小さく、回復が早い腹腔鏡手術やロボット支援手術が主流となりつつあります。一方で、肛門に非常に近い位置にがんがある場合は、肛門括約筋の温存が難しく、永久的な人工肛門を造設する直腸切断術が必要となることがあります。

集学的治療の重要性

近年のがん治療は、手術、放射線療法、薬物療法を組み合わせる「集学的治療」が主流です。特に進行した直腸がんでは、手術の前に放射線療法と化学療法を併用する「術前化学放射線療法」が行われることが増えています。この治療法は、がんを小さくすることで、手術の成功率を高めたり、肛門温存の可能性を高めたりするメリットがあります。