疾患について
フルニエ壊死の症状
フルニエ壊死(Fournier’s gangrene)は、主に生殖器、会陰部、肛門周囲を中心として、皮膚から皮下組織、さらに深部の筋膜へと急速に壊死が進行する重篤な感染症です。この疾患は、驚くほど速いスピードで進行することが最大の特徴であり、生命に関わる危険な状態を引き起こすため、一刻も早い対応が求められます。
初期には、以下のようないくつかの特徴的な症状が現れます。
- 陰嚢や会陰部の突然の腫脹と激しい痛み。
- 患部の発赤や発熱。
- 皮膚が灰色や黒色に変化する変色。
- 患部から悪臭を放つ場合があります。
- 水ぶくれや斑点が生じることがあります。
特に、フルニエ壊死に特徴的なのは、肉眼で確認できる発赤の範囲を超えて、周囲の広い範囲に激しい痛みが広がることです。これは、皮膚の表面だけでなく、深部の筋膜に沿って炎症が進行していることを示唆しています。
さらに病態が進行すると、数時間から数日といった短時間で、患部の腫れが急速に拡大します。これに伴い、高熱、速い心拍(頻脈)、気分不快、さらには意識障害などの全身性の重篤な症状を伴う敗血症という状態に陥ることがあります。これらの症状は、感染が全身に波及し、身体全体に影響を及ぼし始めた兆候であり、この段階に至ると非常に危険な状態となります。
原因
フルニエ壊死は、肛門周囲膿瘍や痔瘻などの肛門周囲の感染症が重篤化した状態として発症することが多い、比較的まれな疾患です。しかし、尿路感染症や外傷、カテーテルの留置などの医療行為がきっかけとなることもあります。この疾患の根本的な原因は、複数の種類の細菌が同時に引き起こす「混合感染」にあります。主に大腸菌、連鎖球菌、ブドウ球菌、そして特に酸素を嫌う嫌気性菌などが複雑に絡み合い、感染が急速に拡大していきます。
この疾患の発症には、以下のような特定の基礎疾患や状態が深く関連しており、これらの因子を持つ方は特に注意が必要です。
- 糖尿病: 最も頻度の高いリスク因子です。糖尿病は、免疫機能の低下、血管の血流障害、神経障害などを引き起こし、細菌が体の防御機構を突破して急速に拡散する温床となります。
- 慢性的なアルコール乱用: 栄養不良や免疫機能の低下を招き、感染症に対する抵抗力を弱めます。
- 免疫抑制状態: ステロイド剤の使用や、悪性腫瘍、長期入院、栄養不良なども免疫力の低下を招き、感染リスクを高めます。
- その他: 肥満や高齢も発症リスクを高める要因となります。
これらの基礎疾患は、身体の免疫機能や抵抗力を低下させ、感染症を重篤化させやすい環境を作り出します。特に、糖尿病をお持ちの方が会陰部に異常な腫れや激しい痛みを感じた場合は、フルニエ壊死の可能性を念頭に置き、直ちに専門の医療機関を受診することが極めて重要です。
診断
フルニエ壊死は急速に進行する疾患であるため、診断は臨床症状から迅速に行い、直ちに治療へと移行することが不可欠です。診断のプロセスでは、患者様の症状や全身の状態を評価するとともに、以下の複数の検査を組み合わせて病変の範囲や重症度を正確に把握します。
- 問診と身体診察: どのような症状が、いつから、どのような経緯で始まったかを詳しくお伺いします。また、糖尿病などの基礎疾患の有無も確認します。視診と触診で患部の腫れ、発赤、皮膚の変色、悪臭の有無などを確認します。
- 画像検査: 診断において特に重要なのが画像検査、中でもCT検査です。フルニエ壊死はガス産生菌による感染が多いため、CTやX線検査では、皮膚の下にガスが溜まる「皮下気腫」が90%以上の症例で確認できます。CT検査は単に病名を確定するだけでなく、炎症がどこまで広がっているか、どの部位に膿が溜まっているかなどを詳細に把握することができ、緊急手術の計画を立てるための「地図」として不可欠な役割を果たします。
- 血液検査: 感染の程度や全身への影響を評価するために行います。白血球数や炎症反応を示すCRPの数値を確認し、敗血症の兆候がないかを判断します。また、全身管理のために血糖値や腎機能なども同時に評価します。
これらの複数の検査を迅速に実施することで、正確な診断を行い、その後の緊急治療へと速やかに移行することが可能となります。
治療
フルニエ壊死は、その急速な進行性と高い死亡率から、集中的かつ包括的な治療が必要な重篤な疾患です。救命のためには、以下の3つの治療を同時に、あるいは並行して迅速に進めることが不可欠です。
- 緊急手術(デブリードマン) フルニエ壊死の治療において、最も重要かつ不可欠なのが、緊急手術によるデブリードマンです。デブリードマンとは、壊死に陥った組織を広範囲に、そして徹底的に除去する手術です。感染の拡大は、物理的に病原菌と毒素を体の外に取り除かなければ止めることはできません。この手術は、病原菌が皮下を広がることを阻止し、敗血症への移行を防ぐための唯一の確実な手段となります。
- 広域抗菌薬の投与 手術と並行して、複数の種類の細菌に効果のある広域抗菌薬を点滴で大量に投与することが不可欠です。フルニエ壊死は複数の細菌による混合感染が原因であるため、これら全ての菌に作用する強力な抗菌薬の選択が重要となります。
- 全身管理 フルニエ壊死は全身性の敗血症を合併するリスクが非常に高いため、集中治療室(ICU)での厳重な全身管理が必要となります。具体的な管理としては、循環動態や呼吸状態の安定化、腎不全が起きた場合の血液透析、そして細菌が放出するエンドトキシン(毒素)を血液から除去するための療法(PMX-DHPなど)が複合的に行われることがあります。