疾患について
クローン病の裂肛・痔瘻の症状
クローン病は、口腔から肛門までの消化管全体に慢性的な炎症を引き起こす国の指定難病です 。この病気の患者さんの約30%に肛門病変が認められると言われており 、中には腹痛や下痢などの消化器症状よりも先に肛門の症状が現れ、それがきっかけでクローン病と診断されるケースも珍しくありません 。
クローン病に特徴的な肛門病変には、主に裂肛(切れ痔)と痔瘻(あな痔)があります 。一般的な痔とは異なり、クローン病による肛門病変は難治性で再発しやすいという特徴があります 。
- 肛門の痛みや腫れ、発熱を繰り返す 。
- 排便時に強い痛みを感じる 。
- 下着に膿や粘液が付着し、汚れる 。
- 肛門周囲にしこりや複数の穴(二次口)がある 。
- 便が出にくかったり、便が漏れるといった排便機能の異常がある 。
- 女性の場合、肛門の前方(腟側)に腫れや違和感がある 。
- 肛門症状に加え、慢性の下痢、腹痛、体重減少、発熱などの全身症状がある 。
これらの症状は、日常生活の質(QOL)を著しく低下させるだけでなく、放置すると病変が複雑化するリスクがあるため、早期の専門的な診察が重要です 。
原因
クローン病に伴う肛門病変は、消化管の壁全体に深く進行する炎症が根本的な原因となります 。この炎症によって、直腸や肛門に深い潰瘍が形成され、そこから細菌感染が起こることで、肛門周囲に膿瘍や瘻管(膿のトンネル)が形成されます 。
この病態は、一般的な痔瘻の原因である肛門腺への細菌感染とは根本的に異なります 。
- 裂肛(切れ痔)の原因: クローン病の炎症によって、肛門の出口付近に深くえぐれた「縦走化」した潰瘍が形成されることが特徴です 。この深い潰瘍が、通常の裂肛とは異なる難治性の痛みを引き起こします。
- 痔瘻(あな痔)の原因: クローン病の炎症が腸管の深い層に及ぶことで、肛門周囲に複数の太く複雑な瘻管が形成される傾向があります 。一般的な痔瘻が肛門の後ろ側にできることが多いのに対し、クローン病の痔瘻は特定の場所に限らず、肛門から離れた場所にできることもあります 。
これらの要因が複合的に絡み合い、治療を困難にしています。
診断
クローン病の肛門病変を正確に診断するためには、局所の病変だけでなく、全身の病態を総合的に評価することが不可欠です 。
- 問診と身体診察: まず、肛門の症状だけでなく、腹痛、下痢、発熱などの全身症状について詳しくお話を伺います 。難治性の肛門病変は、クローン病の診断基準における重要な副所見の一つであるため 、症状の経緯を丁寧に確認します。
- 画像検査: 肛門の視診や触診だけでは把握できない瘻管の複雑さや深さを評価するために、画像検査を行います 。
- MRI検査(特に骨盤MRI): クローン病による肛門病変の診断において、最も有用な検査の一つです。瘻管の複雑な形状、深さ、肛門括約筋との位置関係などを詳細に把握できます 。
- 超音波検査(肛門エコー): リアルタイムで病変を観察できるため、膿瘍の有無や瘻管の評価に役立ちます 。
- 大腸内視鏡検査: 肛門病変だけでなく、大腸全体の炎症の程度や潰瘍・狭窄を評価するために行われます 。
これらの検査を組み合わせることで、肛門病変の正確な診断だけでなく、消化管全体のクローン病の病態を総合的に評価し、最適な治療方針を立てることが可能になります 。
治療
クローン病の肛門病変の治療は、外科的治療と内科的治療を組み合わせた集学的なアプローチが基本となります 。治療の第一目標は、肛門機能を最大限に温存しながら、炎症をコントロールすることにあります 。
- 外科的治療: 局所の感染を制御し、症状を軽減するために行われます 。
- 切開排膿: 膿が溜まって強い痛みや発熱がある場合に、膿を排出させるために行います 。
- シートン法: 複雑な痔瘻に対する第一選択の治療法です。瘻管に糸やゴムを通し、持続的に膿を排出させることで感染をコントロールし、炎症を落ち着かせます 。この方法は肛門括約筋へのダメージを最小限に抑え、便失禁などのリスクを低減します 。
- 薬物療法: 外科的処置で局所の感染を制御した後に導入されることが一般的です 。
- 抗菌薬: 局所的な細菌感染を制御するために、メトロニダゾールやニューキノロン系などの抗菌剤が投与されます 。
- 生物学的製剤・免疫調節薬: 根本的な炎症を抑制することで症状の軽減や再燃の予防を目的とします 。特に抗TNFα抗体製剤は、手術との併用により高い効果が期待でき、再発や人工肛門造設を避けるために早期からの投与が推奨されることもあります 。
- 栄養療法: 腸管の安静を図り、全身状態を改善させるための基本治療です 。腸に負担をかけない特殊な栄養剤を経口または静脈から摂取し、薬物療法と並行して継続することで、症状の改善や寛解維持に有効とされています 。
クローン病は慢性的な病気であり、治療によって症状が落ち着いても再燃を繰り返す可能性があります 。そのため、長期的な視点での継続的な観察と管理が不可欠です。長期にわたる難治性・再発性の肛門病変からは、まれに悪性腫瘍が発生するリスクがあるため 、定期的な検査と専門医による継続的なケアが非常に重要となります。