Diseases

疾患について

直腸瘤(直腸腟壁弛緩症)の症状

直腸瘤(ちょくちょうりゅう)は、直腸腟壁弛緩症(ちょくちょうちつへきしかんしょう)や、英語でレクトシール(rectocele)とも呼ばれる疾患です 。特に中年以降の女性に多く見られる排便トラブルの主要な原因の一つであり、その本質は「直腸と腟の間にある壁が弱くなること」にあります 。この壁はもともと薄い構造をしていますが、何らかの理由でその支持組織が緩み、弱くなることで、排便時に直腸の前壁が風船のように腟側へ膨らみ、袋状やポケット状の構造を形成します 。  

直腸瘤が引き起こす症状は、単純な便秘として見過ごされがちですが、その背後には特有の身体的メカニズムが隠れています。患者様が自覚する主な症状には、以下のようなものがあります。

  • 排便困難感: 便意を感じ、便が肛門付近まで降りてきている感覚があるのに、そこから先へ進まず、うまく排便できない感覚が続きます 。  
  • 残便感、頻便: 一度の排便で便が出きった感じがなく、残便感が残るため、何度もトイレに足を運ぶことになります 。  
  • 排便時の腟の膨隆: いきんだときに、肛門や会陰部(えいんぶ)だけでなく、腟側が一緒に膨らんだり、突出したりするのを自身で感じることがあります 。  
  • 用指排便(用手排便): 排便が困難な際に、無意識的に膨らんだ腟や会陰部を指で押したり、圧迫したりすることで、便を肛門へ押し出す行為です 。  

特に「用指排便」は、多くの方が誰にも相談できずに、一人で密かに続けている非常にデリケートな症状です。この行為は直腸瘤が原因で便が物理的に詰まっていることを示す典型的なサインであり、患者様が抱える「便が出ないのは自分のせいではないか」という漠然とした不安に対し、「それは疾患による物理的な問題である」という明確な答えを提供します 。このような行動は、疾患の進行を示す重要な手がかりであるため、一人で悩まずに医療機関に相談することが非常に重要です。  

原因

直腸瘤は、単一の原因で発症するのではなく、複数の要因が複雑に絡み合って進行することが多い疾患です 。直腸と腟の間の壁が弱くなる主な原因として、以下の要因が考えられます。  

  • 加齢: 年齢を重ねると、内臓を支える骨盤底の筋肉や靭帯が弾力性を失い、全体的に緩んでいきます 。特に更年期以降、女性ホルモンの減少が骨盤底筋を弱める要因となり、直腸瘤のリスクを高めることが知られています 。  
  • 出産経験: 妊娠と分娩は、骨盤底筋群に大きな物理的ストレスをかけます 。特に多産や難産の経験がある場合は、組織が伸びたり、損傷したりすることがあり、これが将来的に直腸瘤の発生につながる重要な要因となります 。  
  • 慢性的な便秘と排便時のいきみ: 繰り返し強い力でいきむ行為は、直腸内の圧力を異常に高め、もともと弱くなっていた直腸と腟の間の壁をさらに押し広げ、進行させる最大の要因です 。  

これらの要因は、時に自己増悪的な「負の連鎖」を引き起こします。便秘で強くいきむことが直腸瘤を悪化させ、直腸瘤で便が詰まることで便秘がさらにひどくなる、という悪循環です 。この悪循環こそが、直腸瘤が自然には改善せず、徐々に進行していく根本的な理由です。この連鎖を断ち切り、症状の進行を防ぐためには、早期の専門的な診断と治療が不可欠となります。  

診断

直腸瘤の診断は、患者様の症状を詳細にお伺いする問診から始まります。便の出方や排便時の感覚など、患者様自身が「便秘」として認識している症状の奥に隠された、直腸瘤に特有の手がかりを見つけ出します。その後、より正確な診断のために、身体診察と専門的な検査を組み合わせて行います。

  • 問診と身体診察: まず、患者様の症状を詳しくお伺いし、排便時の状況や用指排便の有無を確認します。次に、医師が直腸内に指を入れ、直腸と腟の間の壁の膨らみを触診する指診を行います 。  
  • 排便造影検査(Defecography): 肛門から造影剤(バリウムペースト)を注入し、実際に排便する様子をX線装置でリアルタイムに撮影・観察する専門的な検査です 。これにより、便が直腸瘤のポケットに流れ込む様子や、排便時の直腸と肛門の動きを詳細に把握し、便排出障害の原因を特定することができます 。  
  • 経会陰超音波検査(Transperineal ultrasound): 腟と肛門の間(会陰部)から超音波を当てる検査で、骨盤底筋や直腸腟壁の構造をリアルタイムで確認します。非侵襲的で患者様の負担が少ないのが特徴です 。  
  • 肛門内圧検査: 肛門を締める筋肉(肛門括約筋)や骨盤底筋群の機能を数値で測定します 。これにより、排便障害の原因が直腸瘤だけでなく、これらの筋力低下にある可能性も評価します 。  

これらの専門的な検査を通じて、当院では直腸瘤という単一の疾患だけでなく、排便障害を引き起こす肛門括約筋の機能不全や直腸脱といった他の骨盤底障害も同時に包括的に評価します。これにより、患者様の症状の根本的な原因を多角的に突き止め、一人ひとりに最適な治療法を導き出すことが可能となります。

治療

直腸瘤の治療は、まず手術を伴わない「保存的治療」から始め、症状の改善が見られない場合や重度の場合は「手術療法」を検討するという、段階的なアプローチが一般的です 。患者様の症状の程度やライフスタイル、ご希望に応じて、最適な治療法を提案いたします。  

  • 保存的治療: 症状が軽度な場合や、手術を希望されない場合に行う、非侵襲的な治療法です 。生活習慣の改善(食物繊維の摂取、排便習慣の指導)、薬物療法(便を軟らかくする下剤など)、骨盤底筋エクササイズ・バイオフィードバック療法などが含まれます 。  
  • 手術療法: 保存的治療で症状が改善しない場合や、直腸瘤が非常に大きく、生活に支障をきたしている場合に検討します 。弱くなった直腸と腟の間の壁を補強・修復することで、便がポケットに詰まる根本原因を解消することを目指します 。具体的な術式には、直腸腟隔壁欠損部修復術やメッシュ修復術などがあります 。