疾患について
嵌頓痔核(かんとんじかく)の症状
嵌頓痔核は、内痔核の中でも特に重症かつ急性期の病態であり、その激しい症状によって患者様の日常生活に多大な影響を及ぼします。これは単なる痔の進行形ではなく、早急な医療介入を必要とする緊急性の高い疾患の一つと考えられています。通常、内痔核は激しい痛みを伴わないとされますが、嵌頓痔核はこの定説の例外であり、非常に強い痛みが特徴となります。
主な症状は以下の通りです。
- 激しい痛みと腫れ: 多くの患者様が、まるでみかんや親指大の血豆のような塊が肛門から脱出し、耐え難い激痛を伴うことで来院されます。痛みは排便時だけでなく、座ったり、立ち上がったりする日常的な動作だけでも激しくなるため、歩行すら困難になることがあります。この激痛は、患部への触診を困難にさせるほど強い場合があります。
- 肛門周囲の腫れとしこり: 肛門から大きく腫れ上がった、硬いしこりのようなものが脱出している状態です。この腫れは、もともとの痔核にむくみ(浮腫)が加わったことで、普段の痔核の状態よりも遥かに酷く膨れ上がったものです。
- 出血: 痔核の表面が破れたり、うっ血によって血流が悪化したりすることで、ぽたぽたと垂れるような出血や、トイレットペーパーに付着する程度の出血が見られることがあります。
これらの典型的な症状に加え、嵌頓痔核は複数の病態が複雑に絡み合った状態であり、さらなる合併症を引き起こす可能性があります。激しい痛みは、無意識のうちに肛門括約筋の過度な収縮や痙攣を誘発し、これが脱出した痔核をさらに強く締め付けることになります。この「絞扼」が血流を著しく悪化させ、むくみや血栓形成を進行させることで、痛みがさらに増強されるという悪循環に陥ります。また、肛門の激しい炎症と腫れが、骨盤内の解剖学的に近い位置にある膀胱や尿道の機能に影響を及ぼし、排尿困難や排尿不能といった予想外の症状を引き起こすこともあります。このような状態が長期化すると、血流障害により痔核の組織が潰瘍化し、最終的には壊死(組織が腐敗すること)に至る可能性があり、その際には悪臭を伴う浸出液が出ることもあります。



原因
嵌頓痔核は、突然発症する独立した疾患ではなく、通常はもともと存在していた内痔核が、特定の要因によって急激に悪化することで引き起こされます。この病態は、痔の進行と急性的な発症メカニズムが複合的に絡み合って生じるものです。
主な原因は以下の通りです。
- 進行した内痔核の存在: 嵌頓痔核は、排便時などに肛門外に脱出するようになった、進行した内痔核(一般的にはゴリガー分類のⅡ度以上)が前提となります。
- 肛門への強い圧力: 便秘や下痢による強いいきみ、長時間の座り仕事や重いものを持ち上げるなどの身体的な負荷、あるいは妊娠や出産などによって、肛門周囲に強い圧力がかかることが発症の引き金となります。
- 肛門括約筋による締め付け: 肛門外に脱出した痔核が、痛みやいきみによって緊張した肛門括約筋に締め付けられること(絞扼)が、嵌頓痔核の決定的な発症メカニズムです。この絞扼により痔核の血流が遮断され、急激なうっ血、血栓形成、そしてむくみが進行し、激しい痛みを伴う状態へと至ります。
この病態の進行を段階的に捉えると、まず、不適切な生活習慣などによって内痔核が形成され、それが徐々に進行します。次に、強いいきみなどの「引き金」となる事象が発生し、痔核が肛門外に脱出します。最後に、この脱出が肛門括約筋の痙攣によって強く締め付けられるという「決定的なメカニズム」が働き、嵌頓痔核という急性の病態に発展します。
激しい痛みを伴う肛門疾患には、嵌頓痔核の他にも血栓性外痔核や肛門周囲膿瘍などがあり、これらは症状が似ているため正確な鑑別診断が必要です。特に血栓性外痔核は、外痔核に血栓ができたものであり、発生部位が異なります。嵌頓痔核は内痔核が脱出して大きく腫れ上がった状態である一方、血栓性外痔核は比較的大きさが小さいことが特徴です。このような鑑別能力は、疾患の本質を理解し、適切な治療方針を立てる上で不可欠となります。
診断
嵌頓痔核は非常に強い痛みを伴うため、診断は患者様の苦痛を最小限に抑えつつ、迅速かつ正確に行うことが求められます。診断プロセスは、患者様の詳細な情報収集から始まり、主に視診を中心に進められます。
診断は主に以下の流れで行われます。
- 問診: 診察はまず、患者様のお話を詳しく伺うことから始まります。いつから、どのような症状(痛み、出血、腫れ)があるか、症状が始まったきっかけ、過去の痔の治療歴、現在治療中の病気や内服中の薬などについてお伺いします。
- 診察体位の準備: 肛門の診察は、多くの場合、患者様に左を下にして横向きに寝ていただく「シムス体位」で行われます。この際、看護師がサポートし、患部以外はタオルなどで覆うなど、患者様の羞恥心や不安に配慮した状態で進められます。
- 視診: 患部を目で見て確認する視診が診断の最も重要な要素となります。医師は、肛門から脱出した痔核の大きさ、色調(紫色や黒っぽい色)、むくみ、出血や壊死の有無などを細かく観察します。
- 鑑別診断: 視診と問診から得られた情報をもとに、血栓性外痔核や肛門周囲膿瘍など、類似の症状を呈する他の疾患ではないことを確認します。嵌頓痔核は全周性に大きく腫れ上がる特徴があり、これにより他の疾患との区別が可能となります。
嵌頓痔核の診断においては、痛みが非常に強いため、肛門鏡を用いた内部の検査が不可能である場合が多いのが特徴です。無理な検査は患者様にさらなる苦痛を与えるため、視診と指診(潤滑剤をたっぷりつけた指で優しく触診)で的確な診断を下すことが求められます。これは、診察の安全性と患者様の快適性を最優先にする姿勢の表れであり、医師の経験と専門知識が問われる局面でもあります。
治療
嵌頓痔核の治療は、まず何よりも激しい痛みと炎症、そして腫れを軽減させることを最優先に行います。急性期の症状が落ち着いた後、再発を防ぐための根本的な治療を検討するという、二段階の治療方針が一般的です。
治療方法は主に以下の通りです。
- 保存的治療
- 薬物療法: 痛みと炎症を抑えるために、鎮痛剤の内服や、患部に直接作用する軟膏、坐薬などを使用します。
- 温浴・坐浴: ぬるま湯に浸かる温浴や坐浴は、患部の血行を促進し、うっ血やむくみを改善させるのに有効です。
- 安静: 患部へのさらなる刺激を避けるため、安静にすることが症状改善の基本となります。
これらの保存的治療は、発症後3〜4日程度で痛みが徐々に和らぎ、腫れが引く場合もありますが、多くの場合、一時的な症状の緩和に留まります。根本的な原因である脱出しやすい痔核自体がなくなるわけではないため、再発を繰り返す可能性が高いとされています。
- 手術
- 保存的治療で十分な効果が見られない場合や、症状が特に重い場合、または再発を繰り返す場合は、根本的な解決策として手術による治療が検討されます。嵌頓痔核は緊急性の高い疾患ではありますが、必ずしも来院後すぐに緊急手術が必要となるケースは稀であり、ほとんどの場合は症状を観察しながら手術の時期を決定します。手術では、結紮切除術のように痔核を切除する方法や、痔核を縮小させる治療法などが用いられます。
治療法ついて→痔核根治手術について
- 保存的治療で十分な効果が見られない場合や、症状が特に重い場合、または再発を繰り返す場合は、根本的な解決策として手術による治療が検討されます。嵌頓痔核は緊急性の高い疾患ではありますが、必ずしも来院後すぐに緊急手術が必要となるケースは稀であり、ほとんどの場合は症状を観察しながら手術の時期を決定します。手術では、結紮切除術のように痔核を切除する方法や、痔核を縮小させる治療法などが用いられます。