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疾患について

裂肛(きれ痔)の症状

裂肛(れっこう)とは、肛門の出口付近の皮膚(肛門上皮)が、縦方向に裂けて傷ついた状態を指します。一般的には「きれ痔」とも呼ばれ、特に排便時に強い痛みと出血を伴うことが特徴です。肛門の皮膚には、体の他の部位の皮膚と同様に、痛みを感じる知覚神経が豊富に発達しているため、たとえ小さな傷であっても激しい痛みを引き起こすことがあります。

  • 急性裂肛 肛門上皮が浅く裂けた初期の状態です。症状は一般的に排便時の痛みと出血が主で、排便後は比較的早く痛みが収まるのが特徴です。
    • 排便時の鋭い痛み 排便の際、特に硬い便が肛門を通過する時に、まるで鋭利な刃物で切られたような「激しい痛み」や「焼けるような痛み」を感じます。
    • 鮮血の出血 出血は、トイレットペーパーに鮮やかな赤色の血が付着する程度が一般的です。多くの場合、出血量は少量ですが、まれに便器が真っ赤になるほどの出血を伴うケースもあります。大量の出血に至ることは稀で、これは肛門括約筋の緊張によって血管が収縮し、出血が自然に止まると考えられています。
  • 慢性裂肛 裂肛を繰り返すことで傷が深くなり、数週間から数ヵ月にわたって症状が続く状態です。
    • 排便後も続く痛み 傷が深くなり慢性化すると、排便後数時間にわたってズキズキとした痛みが続くことがあります。
    • 肛門周囲の合併症 慢性的な炎症により、さまざまな合併症が生じることがあります。
      • 見張りいぼ・肛門ポリープ:傷の外側(皮膚側)に「見張りいぼ」と呼ばれる小さな突起ができたり、傷の内側(直腸側)に「肛門ポリープ」と呼ばれる突起が形成されたりします。
      • 肛門狭窄:傷跡が線維化して硬くなり、肛門の出口が狭くなります。その結果、便が細くなったり、排便自体が困難になることがあります。

これらの症状は、日常生活の質を大きく低下させるだけでなく、放置するとさらに治りにくくなる悪循環に陥る可能性があります。排便時の激しい痛みがトラウマとなり、排便を無意識に我慢するようになると、便は直腸内で水分を失ってさらに硬くなり、次の排便で傷口をさらに深くしてしまうのです。痛みや出血に気づいたら、この悪循環を断ち切るために、決して一人で悩まず、お早めに専門医にご相談ください。

原因

裂肛は、主に肛門の皮膚が硬い便や勢いの強い便によって物理的なダメージを受けることで発生します。その背景には、便通異常や日々の生活習慣が大きく関わっています。
裂肛の主な原因は以下の通りです。

  • 便通異常(便秘と下痢)
    • 便秘: 裂肛の最大の原因は、硬く太い便の排泄です。便秘によって便が硬くなると、肛門を通過する際にデリケートな皮膚が傷つけられ、裂肛を引き起こします。特に女性は、ダイエットやホルモンバランスの変化などにより便秘になりやすく、裂肛を発症する割合が高いとされています。
    • 下痢: 便秘とは対照的に、勢いよく排出される下痢も肛門の皮膚に大きな負担をかけ、裂肛の原因となることがあります。慢性的な下痢は、肛門の皮膚にびらんや炎症を引き起こし、傷の治癒を妨げる要因にもなり得ます。
  • 生活習慣と肛門への負担 便通異常は、以下のような日々の生活習慣と密接に関連しています。
    • 食生活: 食物繊維や水分が不足した食事は、便を硬くする直接的な原因となります。また、ダイエットによる食事量自体の減少も、便の量を少なくし、便意を感じにくくするため、便秘を引き起こしやすくなります。
    • 排便習慣: 無理に強くいきんだり、スマートフォンを見ながら長時間トイレに座り続けたりすることは、肛門に過度な負担をかけ、傷つきやすい状態を招きます。
  • その他の要因 分娩時の強い腹圧や、肛門への不適切な刺激も、肛門の皮膚が裂ける原因となることがあります。また、クローン病などの特定の疾患が、慢性的な下痢や炎症を通じて裂肛を引き起こす場合もあります。

このように、裂肛は単一の原因で起こるのではなく、硬い便や下痢といった直接的な要因の背景に、食事内容や排便習慣といった根本的な生活習慣が複合的に絡み合って発症することが多いです。したがって、便通をコントロールし、肛門に優しい生活を心がけることが、予防と治療の第一歩となります。

診断

肛門の診察は、多くの方にとって不安や恥ずかしさを伴うものです。当院では、患者様のプライバシーと痛みに最大限配慮しながら、現在の症状を正確に把握するための丁寧な診察を行います。

診断は主に以下の流れで進められます。

  • 丁寧な問診 まず、いつから、どのような時に痛みや出血があるか、便の形状や排便習慣、過去の病歴などについて詳しくお伺いします。肛門の症状を正確に理解するためには、患者様の生活背景や体質をじっくりと伺うことが不可欠です。患者様のお話を丁寧に聞くことで、その後の診察計画を立て、より迅速かつ的確な診断につなげます。
  • 視診と直腸指診 カーテンで仕切られた診察室で、まず目視によって肛門の裂け目の有無や、見張りいぼ、肛門ポリープなどの合併症がないかを確認します。痛みが少ない場合には、指に麻酔作用のある潤滑ゼリーを塗り、肛門の痛みのある部分や、肛門括約筋の緊張の程度、ポリープの有無を慎重に確認します。この際、患者様の痛みを最小限に抑える工夫をしていますのでご安心ください。
  • 肛門鏡検査 肛門の内部を専用の器具(肛門鏡)で観察し、傷の深さや広がり、他の病変の有無を評価します。痛みが強い場合は、患者様に負担がかからないよう、器具の挿入に細心の注意を払い、可能な範囲で検査を進めます。
  • その他(必要に応じた精密検査) 問診や視診・肛門鏡検査で、より詳しい検査が必要と判断された場合には、大腸がんやクローン病などの可能性を除外するため、大腸カメラ検査などを検討することがあります。

診察は、患者様との信頼関係を築くことから始まります。リラックスして診察を受けていただくことで、より正確な診断につながります。ご不明な点があれば、遠慮なく医師やスタッフにお尋ねください。

治療

裂肛の治療は、まず便通を整え、患部の炎症を抑えることを目的とした保存療法が基本となります。症状が慢性化し、生活に支障をきたしている場合には、手術療法が検討されます。患者様の症状やライフスタイルに合わせた最適な治療法を、医師がご提案いたします。

保存療法(第一選択)

裂肛の原因である便通異常を根本から改善することが、治療の最も重要な基盤となります。

生活習慣の改善

便を柔らかく保つために、食物繊維を多く含む野菜や海藻、そして十分な水分を積極的に摂ることが重要です。また、毎日湯船にゆっくりと浸かり、肛門周囲を温めることで血行がよくなり、痛みの軽減と傷の治癒を助けます。肛門を清潔に保つことも重要です。

薬物療法

生活習慣の改善と並行して、症状に応じて薬物療法を行います。便を柔らかくする下剤や緩下剤を用いることで、排便時の負担を軽減します。また、患部の痛みや炎症を抑える目的で、軟膏や坐薬などの外用薬を使用します。肛門の外側に傷や炎症がある場合は軟膏を、肛門の内側に症状がある場合は坐薬が効果的です。注入軟膏は、肛門の内外両方に使える利便性の高い選択肢です。

手術療法(慢性化した場合)

保存療法で改善が見られない慢性裂肛や、肛門狭窄、見張りいぼなどの合併症がある場合に検討されます。

用手拡張術

麻酔下で医師が指を使って肛門を広げ、過度に緊張した肛門括約筋を緩める治療法です。肛門の緊張が強すぎるために裂肛が治りにくい場合に有効で、切開の必要がなく、日帰りで受けることが可能です。

裂肛切除術

深い潰瘍状になった傷や、併発している見張りいぼ、肛門ポリープなどを切除し、傷の治癒を促す治療法です。肛門の傷自体が治癒を妨げている場合に検討されます。

皮膚弁移動術(SSG法)

慢性化して線維化し、伸びなくなった肛門の狭窄を根本的に解消するための手術です。傷を切除した後、近くの健康な皮膚を移動させて覆いかぶせることで、肛門の広がりを取り戻します。

手術について