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疾患について

痔核(いぼ痔)の症状

痔核は、肛門の付近にできる「いぼ」状の腫れを指し、その症状はできる位置や進行度によって大きく異なります。いぼ痔は、肛門の内側にある直腸粘膜にできる「内痔核」と、肛門の外側にある皮膚にできる「外痔核」に大別されます。多くの場合、内痔核と外痔核が同時に発生し、内外痔核として症状が現れることもあります。内痔核は痛みがほとんどない一方で、外痔核は激しい痛みを伴うことが多く、この違いはそれぞれの発生部位の解剖学的構造に起因します。

以下に、痔核の主な症状を種類別にご紹介します。

内痔核

主な症状

  • 排便時の出血: 内痔核は、肛門内部の神経がない直腸粘膜にできるため、初期段階ではほとんど痛みを伴いません。そのため、排便時にトイレットペーパーに鮮やかな赤い血が付着したり、便器にポタポタと垂れたり、時にはシャワーのように勢いよく出血したりして初めて気づくケースが多く見られます。
  • いぼ状の組織の脱出: 進行すると、排便時のいきみによって痔核が肛門の外に出てくることがあります。最初は自然に戻りますが、次第に指で押し込まなければ戻らない状態になり、最終的には常に脱出したままになることもあります。
  • 違和感や残便感: 排便後に肛門がすっきりしない、何か挟まっているような不快感や違和感を覚えることがあります。

外痔核

主な症状

  • 激しい痛み: 外痔核は、痛覚が敏感な肛門上皮にできるため、強い痛みを伴うことが一般的です。特に、血栓性外痔核と呼ばれる、血管内に血の塊(血栓)ができた場合は、突然硬いしこりが現れ、非常に強い痛みが生じることがあります。
  • 腫れやしこり: 肛門周囲に突然いぼ状の腫れやしこりが現れ、触れると痛みや違和感を感じます

これらの症状は、放置すると段階的に悪化する傾向にあります。特に内痔核は痛みが少ないため見過ごされがちですが、進行すると日常生活に支障をきたす「脱肛」の状態に至ります。自身の症状がどの段階にあるかを客観的に把握することは、早期の適切な対応を検討する上で非常に重要です。内痔核の進行度は、国際的に用いられるGoligher(ゴリガー)分類によって、以下のように4段階に分けられます。

進行度症状
Ⅰ度排便時に出血はあるが、痔核は肛門の外へは脱出しない。
Ⅱ度排便時に痔核が脱出するが、排便が終わると自然に肛門内に戻る。
Ⅲ度排便時に脱出し、指で押し込まないと肛門内に戻らない。
Ⅳ度排便時だけでなく、普段から常に痔核が肛門の外に脱出したままの状態。

原因

痔核は、肛門周囲の血管に負担をかけ、うっ血を引き起こす様々な要因が複合的に絡み合って発生する「生活習慣病」であると考えられています。肛門には、排便時の衝撃を和らげるクッションの役割を果たす組織があり、この組織の静脈がうっ血して腫れ上がり、いぼ状になることで痔核が形成されます。

以下に、痔核を引き起こす主な原因を挙げます。

  • 排便時の習慣と便の状態:
    • 慢性的な便秘や下痢: 便秘で硬くなった便は、排出時に肛門の粘膜を傷つけ、強い負担をかけます。一方、下痢は勢いよく肛門を通過する際に粘膜を傷つけ、頻繁な下痢は肛門への継続的な負担となります。
    • 排便時の強いいきみや長時間の排便: 便秘などで無理にいきむと腹圧が上昇し、肛門のクッション部分にある静脈がうっ血して腫れ、痔核の原因となります。また、トイレで長時間スマートフォンを見たり、本を読んだりする習慣も、肛門に継続的な圧力がかかり、うっ血を悪化させる大きな要因です。
  • ライフスタイルと食習慣:
    • 長時間の同じ姿勢(座位、立位): デスクワークや長時間の車の運転など、同じ姿勢を続けると、肛門周囲の血流が悪化し、うっ血を招きます。
    • 食生活: 食物繊維や水分が不足すると便秘になりやすくなります。また、アルコールや香辛料の過剰摂取は、肛門の血管を拡張させ、うっ血を悪化させる要因となります。
  • その他の要因:
    • 妊娠・出産: 妊娠中の子宮の拡大による腹部の圧迫や、出産時の強いいきみも、痔核発症の大きな原因の一つです。
    • 身体的・精神的ストレス: 疲労やストレスは、体の免疫力を低下させ、肛門周囲に炎症が起こりやすくなることで、痔核を誘発・悪化させることがあります。

これらの要因は、日々の生活の中で無意識のうちに肛門への負担を蓄積させていきます。痔は遺伝する病気という誤解を抱いている方も少なくありませんが、医学的に遺伝するという根拠はありません。しかし、親から子へ食生活や排便習慣といった生活環境が引き継がれることで、同じような症状が現れやすくなる可能性は十分に考えられます。痔核の根本的な予防と改善のためには、自身の生活習慣を見直し、肛門に優しい生活を心がけることが最も重要です。

診断

痔核の症状で悩んでいる方にとって、適切な診断は治療の第一歩です。特に、出血や違和感といった症状は、痔核だけでなく、大腸がんやポリープ、潰瘍性大腸炎など、より重篤な疾患が原因である可能性も否定できません。これらの病気を見逃さないためにも、自己判断で市販薬に頼るのではなく、専門医による正確な診断を受けることが不可欠です。

痔核の診断は、主に以下の方法を組み合わせて行われます。

  • 問診: どのような症状(出血、痛み、腫れ、脱出など)がいつから、どのような時に現れるか、また、排便習慣や食生活などの生活習慣について、詳しくお話を伺います。
  • 視診・指診(触診): 医師が肛門の外側を目で見て(視診)、腫れや皮膚の状態を確認します。次に、指に潤滑ゼリーをつけて肛門内に挿入し、内部のしこりや肛門括約筋の状態などを調べます。指診は患者様の苦痛を軽減するため、必要に応じて麻酔ゼリーを使用することもあります。
  • 肛門鏡検査: 肛門鏡という短い筒状の器具を肛門に挿入し、肛門内部や直腸を直接観察します。これにより、痛みが少ないために自己判断が難しい内痔核の状態や大きさを正確に把握することができます。患者様にもモニターで患部を確認していただくことができる場合もあり、ご自身の状態を理解する上で役立ちます。
  • その他の検査: 出血が続く場合や、他の疾患の可能性が疑われる場合は、S状結腸鏡や大腸内視鏡検査を行い、より詳しく大腸全体を調べることもあります。

こうした診断プロセスは、単に症状を特定するだけでなく、見過ごされがちな重大な病気を早期に発見する上で非常に重要な役割を果たします。症状に気づいたら、勇気を出して専門医にご相談ください。

治療

痔核の治療は、症状の程度や種類、患者様のライフスタイルに応じて多岐にわたります。痔の症状で来院される患者様のうち、手術が必要となるのは全体の数割程度であり、ほとんどの場合は手術以外の方法で症状を改善することが可能です。当院では、患者様お一人おひとりの状態に合わせて、最も適した治療法をご提案します。

保存療法

治療の基本となるのは、生活習慣の改善と薬物療法を中心とした「保存療法」です。軽度の痔核であれば、この保存療法だけで十分な効果が期待できます。

  • 生活指導: 便秘や下痢を避けるため、食物繊維や水分を十分に摂取する、適度な運動を取り入れる、トイレで強くいきむ時間を短くする(5分以内が理想)などの生活習慣を改善することが中心となります。
  • 薬物療法: 痛みや出血、腫れなどの症状を和らげるために、坐薬、軟膏、内服薬などを使用します。患部の炎症を抑えたり、出血を止めたりする効果のほか、軟膏は患部の保護や排便をスムーズにする潤滑油の役割も果たします。

日帰り治療(手術)

保存療法で効果が不十分な場合や、症状が進行している場合は、日帰りでの処置や手術を検討します。

  • 注射療法(ジオン注射): 内痔核に薬液を注射して固め、出血や脱出を改善する治療法です。切開を伴わないため、術後の痛みや出血が少なく、入院の必要がないことが大きなメリットです。
  • ゴム輪結紮療法: 特殊な器具で痔核の根本を小さな輪ゴムで縛り、血流を止めて壊死させ、脱落させる治療法です。

手術療法

痔核の種類や進行度によっては、根治的な手術を検討します。

  • 結紮切除術: 痔核とそれに繋がる血管を根元で縛り、痔核自体を切り取る根治性の高い手術です。内痔核、外痔核どちらにも適用が可能で、あらゆるタイプの痔核に対応できます。