疾患について
好酸球性腸炎の症状
好酸球性腸炎は、消化管の壁にアレルギー反応に関わる好酸球という細胞が異常に集まり、慢性的な炎症を引き起こす病気です。この炎症が、食道、胃、小腸、大腸などの消化管の様々な部位に発生し、多岐にわたる症状を引き起こします。好酸球性腸炎の症状は、他の消化器疾患と似ていることが多く、特有の症状ではないため、診断が遅れることも少なくありません。
この疾患の主な症状には、以下のようなものが挙げられます。
- 腹痛
- 下痢
- 嘔吐、吐き気
- 腹部の張り(腹部膨満感)
- 血便
- 体重減少、食欲不振
これらの症状は、好酸球が浸潤した消化管の機能が正常に働かなくなることによって引き起こされます。特に、栄養吸収が妨げられる状態が続くと、大人の場合は体重が減少し、小児では身長が伸びないといった症状が見られることもあります。また、重症化すると、好酸球の過剰な浸潤によって腸管壁が厚く硬くなり、消化管閉塞を引き起こすことがあります。さらに、腸に穴が開く腸破裂や、腹膜炎を併発することもあり、これらは緊急的な対応を要する重篤な合併症です。
原因
好酸球性腸炎の明確な原因はまだ完全には解明されていません。しかし、この病気は免疫反応の異常によって引き起こされると考えられています。
アレルギー反応に関わる白血球の一種である「好酸球」が、何らかの免疫学的異常によって、消化管の粘膜に異常に多く集まることで発症します。好酸球は、放出する炎症性物質によって消化管の組織を傷つけ、慢性的な炎症を引き起こすとされています。この免疫学的な異常の引き金として、食物に含まれるアレルゲンなどが関与しているのではないかと考えられています。
一般的な食物アレルギー(IgE依存型反応)とは異なり、好酸球性腸炎はIgE抗体が関与しない「非IgE依存型反応」である可能性が高いとされています。この非IgE依存型反応は、原因となる食物を摂取してから症状が出るまでに数時間から、場合によっては2週間以上もの長い時間がかかることがあります。この時間差があるため、患者様自身が原因となる食物を特定することが極めて困難となります。好酸球性腸炎の患者様は、気管支喘息やアレルギー性鼻炎など、他のアレルギー疾患を合併していることが多く、アレルギーを起こしやすい体質が発症に関係している可能性が示唆されています。近年、この疾患の患者数が増加傾向にあることから、食生活の変化などの環境的要因が発症に強く関わっているという報告もありますが、一部には遺伝的な背景も関与していると考えられています。
診断
好酸球性腸炎の診断は、問診、血液検査、画像検査、そして内視鏡検査と組織の採取(生検)を組み合わせて総合的に行われます。
- 問診と鑑別診断 まず、腹痛や下痢、嘔吐といった症状について詳細にお伺いし、いつから、どのような頻度で、どの程度の強さで現れているかを確認します。その上で、潰瘍性大腸炎やクローン病といった他の炎症性腸疾患、感染性腸炎など、同様の消化器症状を引き起こす他の病気ではないことを鑑別します。
- 血液検査と画像検査 血液検査では、末梢血中の好酸球数が増加していないかを確認します。また、腹部超音波検査やCTスキャンを用いて、好酸球の浸潤によって引き起こされる消化管壁の肥厚や、腹水の有無などを調べることが推奨されています。
- 内視鏡検査と生検(確定診断) 診断を確定するために最も重要なのが、内視鏡検査と組織の生検です。内視鏡で消化管の内部を直接観察し、浮腫(むくみ)、発赤、びらんなどの炎症所見を確認します。そして、病変が疑われる部位から組織の一部を採取し、顕微鏡で詳細に観察します。この組織中に、400倍の視野で20個以上の好酸球が存在していることが証明された場合に、好酸球性腸炎と診断されます。ただし、盲腸や上行結腸など、健康な方でも好酸球が多く見られる部位があるため、慎重な判断が必要です。
治療
好酸球性腸炎の治療は、症状を和らげ、病気の活動性を抑えることを主な目的とします。症状が治まっても再発を繰り返す慢性的な経過をたどることが多いため、長期的な視点での治療計画が重要となります。
薬物療法
好酸球性腸炎の治療の中心は、炎症を強力に抑えるステロイドの服用です。全身性の経口ステロイド薬は、好酸球の働きを抑え、高い効果を示します。しかし、長期的な服用には副作用(感染症への抵抗力低下、骨粗しょう症、成長障害など)が懸念されるため、特に小児の患者様では注意が必要です。また、ステロイドの投与量を減らしたり中止したりすると、症状が再び現れる症例も少なくありません。
ステロイド以外の選択肢として、副作用が少ないプロトンポンプ阻害薬や、アレルギー反応を抑える抗ロイコトリエン薬、抗ヒスタミン薬が効果を示す症例も報告されています。これらの薬剤は、ステロイドと比べて長期的な使用における副作用が少ないため、患者様の病状に応じて選択肢の一つとなり得ます。
食事療法
好酸球性腸炎が食物アレルゲンによって引き起こされている可能性が疑われる場合、原因物質を特定し、それを食事から除去する治療法が試みられることがあります。特に重症の患者様に対しては、アレルゲンを特定することが困難な場合に、牛乳、卵、小麦など、アレルゲンとなりやすい特定の食物を一時的に除去する「6種食物除去」が試みられることもあります。ただし、日本の患者様には効果が見られない場合もあるため、さらなる研究が求められています。
外科手術の役割
好酸球性腸炎の治療において、外科手術は一般的な選択肢ではありません。しかし、好酸球の浸潤が進行し、腸管壁が著しく肥厚した結果、消化管閉塞などの重篤な合併症が発生し、内科的治療だけでは改善が困難な場合には、緊急で手術が必要となることがあります。
- 症状改善のための腸管切除手術
これは、物理的な閉塞を取り除くことで、腸の機能を回復させ、患者様の生命に関わるリスクを回避するために行われます。
好酸球性腸炎は、一人ひとりの病態や重症度が異なるため、治療法も画一的ではありません。症状の程度、炎症が起こっている部位、そして患者様の生活背景を総合的に考慮し、専門医が個別の治療計画を立てることが不可欠です。複数の治療選択肢を適切に組み合わせ、医師と密に連携しながら、長期的な視点で病気と向き合っていくことが重要となります。