Diseases

疾患について

直腸脱の症状

直腸脱の最も特徴的な症状は、排便時やいきんだ時に、肛門から「何かが出ている」という感覚です。進行すると脱出物の量が増加し、自力で戻らなくなり、常に飛び出した状態になることもあり、生活の質(QOL)を著しく低下させます 。  

  • 肛門からの脱出: 排便時やいきんだ時に、直腸の一部または全体が裏返って肛門から飛び出します。脱出が大きくなると、自然には戻らなくなり、手で押し戻す必要が生じます 。  
  • 排便障害: 直腸が本来の位置からずれることで、便意をうまく感じられなくなったり、便がスムーズに排出できなくなったりすることがあります 。これにより、慢性的な便秘や、逆に便失禁を引き起こすこともあります 。  
  • 出血と粘液による汚れ: 脱出した直腸の粘膜が下着と擦れることで、出血したり、粘液が分泌されたりし、下着が汚れる原因となります 。  
  • 肛門周辺の不快感: 肛門周囲の痛みやかゆみ、腫れ、圧迫感などを伴うことがあります 。  
  • 骨盤内の違和感: 直腸が下垂することで、骨盤内に異物感や不快感、腰痛が生じることもあります 。  
  • 尿路症状の合併: 直腸が尿道や膀胱を圧迫することで、頻尿や尿漏れといった症状を引き起こすことがあります 。  

これらの症状は、患者様の生活の質を大きく損なう可能性があります。特に、羞恥心から受診をためらいがちですが、直腸脱は早期の診断と治療が非常に重要です。

原因

直腸脱は、内臓を支える骨盤底の筋肉が加齢や出産によって緩むなど、複数の要因が複合的に絡み合って発症します 。これらの筋肉が弱まると、腹圧が加わった際に直腸が下方に押し出されやすくなります。  

  • 加齢による筋力低下: 直腸を支える骨盤底筋群や肛門を締める肛門括約筋は、加齢とともに徐々に弱くなっていきます。特に高齢の女性に多く見られるのはこのためです 。  
  • 出産によるダメージ: 経腟分娩は、骨盤底筋に大きな負担をかけ、筋肉や靭帯を損傷させることがあります 。直腸脱は、子宮脱や膀胱脱など他の骨盤臓器脱と合併することも少なくありません 。  
  • 腹圧の上昇: 慢性的な便秘や、排便時の過度ないきみ、重い物の持ち上げ、慢性の咳、肥満、そして背中が曲がる円背 などは、腹腔内圧を継続的に上昇させます 。  

これらの原因を理解することは、治療だけでなく、予防にもつながります。

診断

直腸脱の診断は、主に患者様の症状を詳しくお伺いし、専門医が患部を直接診察することで行います。診断プロセスは患者様の負担が少なく、比較的短時間で行えますので、ご安心ください。

  • 問診: いつから、どのような時に症状が出るか、排便習慣、既往歴、出産歴(女性の場合)などを詳細にお伺いします 。  
  • 視診・触診: 診察台の上で患者様にいきんでいただき、直腸の脱出の程度や形状、肛門括約筋の緊張度を評価します。この診察だけで、直腸脱の診断はほぼ確定します 。  
  • 画像検査: レントゲンや超音波(エコー)検査を用いて、骨盤内の状態を視覚的に評価することがあります。特に、当院では超音波検査を重視し、他の骨盤臓器脱の合併の有無も確認します 。  
  • 内視鏡検査(大腸カメラ): 直腸脱と似た症状を引き起こす他の病気(直腸がん、大腸ポリープなど)を除外するために、大腸カメラ検査を行うことがあります。これは、正確な診断と最適な治療方針を決定する上で非常に重要なステップです 。  

これらの診断方法を組み合わせて、患者様の状態を総合的に判断することで、症状に合わせた最適な治療法をご提案します。

治療

直腸脱の根本的な治療は、外科手術が原則となります 。しかし、症状の程度や患者様の状態に応じて、手術以外の保存療法も組み合わせてアプローチします。私たちは患者様一人ひとりのライフスタイルや希望を考慮し、最適な方法をご提案します。  

  • 保存療法:
    • 軽度の症状や、手術が困難な方への補助的なアプローチとして、便秘の改善、排便習慣の適正化、骨盤底筋体操などが行われることがあります 。これらは症状の進行を遅らせたり、手術後の再発を予防したりする上で非常に重要です 。  
  • 手術療法:
    • 手術は、直腸を本来の位置に戻し、再び脱出しないように固定する治療法です。手術は大きく分けて、肛門から行う「経会陰手術」と、お腹から行う「経腹手術」の二つに分類されます 。  
    • 経会陰手術(肛門からの手術)
      • 特徴: 肛門周囲からアプローチするため、体への負担が比較的少なく、局所麻酔や腰椎麻酔で施行可能です 。そのため、高齢の方や心臓病などの合併症がある方でも安全に手術を受けることができます 。  
      • 主な術式:
        • ガント-三輪法(Gant-Miwa法): 脱出した直腸の粘膜を縫い縮めて、直腸を内部に引き込む方法です 。この術式は日本国内で広く行われており、体への負担が少ないという特徴があります 。  
        • ティールシュ法(Thiersch法): 肛門周囲にリング状の特殊な素材を埋め込み、肛門を締め付けて脱出を防ぐ方法です 。ガント-三輪法などと組み合わせて、再発予防のために実施されます 。  

          手術について→ 直腸脱の手術治療(ガント-三輪法・Thiersch法など)について
    • 経腹手術(お腹からの手術)
      • 特徴: 腹部からアプローチし、直腸を本来の位置に吊り上げて固定する方法で、再発率が低いことが最大のメリットです 。  
      • 主な術式: 近年は、傷が小さく、体への負担が少ない腹腔鏡手術が一般的になっています。  

直腸脱の治療法は、患者様の病状や全身状態によって選択されます。

手術方法経会陰手術(ガント-三輪法、ティールシュ法など)経腹手術(腹腔鏡下直腸固定術など)
主な特徴肛門からアプローチし、直腸や肛門を修復腹部からアプローチし、直腸を固定
麻酔方法局所麻酔、腰椎麻酔全身麻酔
体への負担比較的低い(低侵襲)比較的高い(開腹手術の場合) 腹腔鏡手術は低侵襲
主な適応高齢の方、合併症がある方、全身麻酔が難しい方若年の方、再発を強く懸念する方、比較的体力のある方
再発率比較的高い  比較的低い  
備考日本で広く行われている術式 他の術式と組み合わせて行われることが多い近年は腹腔鏡手術が主流 メッシュを使用する場合がある